(ブルームバーグ):ブラックストーンやアポロ・グローバル・マネジメントなどプライベートキャピタル業界の大手は、今後10年で数千億ドル規模を欧州に投資すると表明している。だが、バイアウト案件の成立に向けては依然として困難が多い。
数年にわたる停滞を経て、M&A(企業の合併・買収)担当のバンカーたちはようやく明るい兆しを見いだした。大型案件の成立や、トランプ大統領の関税政策に対する懸念の一時的な緩和が背景にある。
しかし、プライベートエクイティー(PE、未公開株)投資業界の関係者は慎重な姿勢を崩していない。
株式市場が過去最高値を更新するなど公開市場での資産価値高騰が、非上場資産の売却希望価格にも波及し、もともと難航していた売却プロセスをさらに難しくしていると、複数の資本市場関係者が語った。
売却に苦戦しているだけでなく、バイアウトファンドは買い手としても慎重で、全体としての取引件数は伸び悩んでいる。
4-6月のM&A総額は回復基調を示した一方、PE関連の取引は失速した。ブルームバーグの暫定データによると、同業界の投資額は前年比で2割以上減少した。
買収資金として使われる借入金のコスト上昇とターゲット企業の評価額上昇という構造的な問題が根底にある。
ホワイト&ケース法律事務所のパートナー、ジェレミー・ダフィ氏は「クライアントは、上場企業を買収して非公開化する際に、借り入れを使った買収パッケージ全体が妥当かどうかを綿密に計算している」と述べた。
米PEファンド、プラチナム・エクイティーは、スペインの廃棄物処理会社ウルバセルの売却プロセスが長引いた末、ブラックストーンやアブダビの政府系ファンド、ADQとの交渉が不調に終わり、売却計画を棚上げした。
売り手が望む企業価値と、買い手が実際に支払いたいと考える金額のギャップは、ここしばらくM&A市場を悩ませ続けている。
中でも買収を検討するPEファンドは、2010年代初頭のバイアウトブーム期に多くの資産を高値づかみしてしまった失敗を繰り返すのを避けようとしている。
たとえばブルックフィールド・アセット・マネジメントは昨年末、スペインの製薬企業グリフォルスへの買収提案を、評価額を巡る売り手との意見の相違から断念した。
PEファンド傘下企業の新規株式公開(IPO)も欧州で難航している。アポロが支援するドイツの自動車部品小売業者オートドックは、先週IPOを延期。医療技術企業のブレインラボも、1日に同様の判断を下した。
PEファンドは、自社が保有する非上場企業の評価に当たり、上場企業の株価を参考にすることが多い。だが現在は株式市場の熱狂的な上昇が企業のファンダメンタルズを正確に反映していないと、多くの買い手が疑念を抱いており、この手法が通用しづらくなっている。
レバレッジドファイナンスの専門家、サブリナ・フォックス氏は「現在の株式のバリュエーションは、多くの買い手や融資元が納得できる水準を超えている」と指摘する。
PEファンドは企業買収に慎重になっているのは買収モデルの転換も一因だ。
かつては買収対象企業に多額の借金を負わせるレバレッジ型の買収手法が主流だったが、昨今ではPEファンド自身がより多くの自己資本を投じることが必要になっている。
保有企業を売りたいPEファンドは、長引く買い手不足がやがて解消に向かうとの期待を抱いている。欧州を中心に巨額の待機資金が控えているためだ。
その通りになり売却の停滞が解消され実質的なリターンが生まれ始めれば、PEファンドに出資する投資家の心理も改善し、資金調達が容易になることも期待される。
実際、PEファンドは投資家への現金還元を急いでいる。ウルバセルのスポンサーのプラチナムは売却が頓挫した後、配当支払いと既存債務の借り換えのために23億ユーロの借り入れを選択した。
フォックス氏も、PEファンドへの出資者らは資本の回収を求めていると指摘。ウルバセルのような「配当リキャップ(借り入れによる配当支払い)は最もリスクの高い資金回収方法だが、現在の市場環境を踏まえると、こうした手法が今後も使われる可能性が高い」と指摘している。
Struggling to Overcome Doubts on Valuations(抜粋)
(最終2段落を追加します)
--取材協力:Fareed Sahloul、David Morris.もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
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