(ブルームバーグ):トランプ米大統領の支持者や協力者は、糖分過多や加工食品、多過ぎる人工着色料など、米国人の食生活について語りたがる。
しかし、健康的かどうか以前の問題として、「そもそも食べ物が十分でない米国人がどれだけいるか」は話題にならない。共和党の思惑通りに事が運べば、その数は増え続けるだろう。
低所得者層の食料品購入を支援する「補助的栄養支援プログラム(SNAP、旧フードスタンプ)」の予算をどこまで削るか、米議会で多数派を占める共和党が協議している。受給対象者を減らし、継続受給者の給付を引き下げ、州政府に負担を押し付ける意図は明白だ。
トランプ大統領が「大きな美しい法案」と呼び、看板政策を盛り込んだ税制・歳出法案は、上院で修正後、再び下院に送られた。さまざまなSNAP関連予算の削減策が法案に含まれる。
労働要件の引き上げや主要な栄養教育プログラムの廃止、合法的に入国した移民の受給対象からの除外に加え、最も憂慮されるのは、連邦政府が全額負担している費用の一部を財政余力が乏しい州政府に肩代わりさせる点だ。
ジョンソン下院議長は、不正と無駄を減らす取り組みであり、SNAP縮小を意図したものでないと主張する。予算の大幅削減を提案しながら、どうして真顔でそう言えるか理解しがたい。
低所得者層のセーフティーネット(安全網)であるSNAPは、フランクリン・ルーズベルト大統領の下で試験的なプログラムが導入され、1964年に恒久的制度となった。予算・政策優先センター(CBPP)によると、2024年時点で米国民の約12%、4000万人余りが利用する。
一般的な食料品購入に充てる給付額は1人当たり1日約6ドル(約860円)、月約200ドルに過ぎない。大きな額に聞こえないだろうが、多くの家計にとっては大金だ。
わずかな給付カットでも、月末に家族全員分の夕食を出せるか、子供の分だけになるか変わってくる。親が食事を抜くのは、珍しいことではない。食料品価格の高騰が今後も続くことが予想され、給付の減額が一層厳しく実感されるだろう。
CBPPによれば、下院案が成立すると仮定した場合、SNAPの給付を少なくとも一部失う世帯の子供の数は200万人を上回る見込みだ。「SNAPの歴史で最大の削減」になるという。

SNAPの受給は、政治の問題ではなく、所得に関わる問題だ。赤い州(共和党の牙城)でも青い州(民主党の牙城)でも、受給世帯は非常に広い範囲に及ぶ。生計費に応じた基準調整は州ごとに可能だが、世帯の月間実質所得が貧困ラインの100%以下であることが基本要件となる。
ただしSNAPを支持するかどうかは党派的な問題と言える。地元選挙区の有権者がSNAPにいかに依存していようと、SNAPたたきに熱心なのは共和党だ。
反飢餓活動を行うNPO、フード・リサーチ&アクション・センター(FRAC)のデータによると、トランプ氏が24年大統領選で得票率67%で勝利したフロリダ州の第26下院選挙区は、6万5000世帯がSNAPを利用しており、受給率は全米有数の約24%に達する。だが同選挙区選出のマリオ・ディアスバラート下院議員は、SNAP予算の削減策を盛り込んだ「大きな美しい法案」に賛成票を投じた。
地元の選挙区民が確実に食べ物を得るために州当局は何をするだろうかとディアスバラート議員にビジネスウィークが問い合わせたが、これまでのところ返答はない。
FRACのSNAP責任者ジーナ・プラタニーノ氏は、有権者に生活を切り詰めさせるのは、再選を目指す政治家にとって得策でなく、給付費用を州に負わせるタイミングが中間選挙後となるのは、それが理由かもしれないと分析した。「極めて戦略的な動きだ」と同氏は指摘する。
だが他の施策はずっと早く実施され、上下両院の法案の規定によれば、SNAPの教育プログラムは数カ月以内に廃止される見通しだ。
(原文は「ブルームバーグ・ビジネスウィーク」誌に掲載)
原題:SNAP Cuts in Big Tax Bill Will Leave Red and Blue States Reeling(抜粋)
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