(ブルームバーグ):日米関税交渉が行き詰まりの様相を呈している中、日系自動車メーカーが本格的な値上げに踏み切るか決断の時が迫りつつある。識者からは、あえて値上げをすることが関税交渉を前進させる糸口になる可能性もあるとの声も上がる。
トランプ米大統領は現地時間の1日、「日本と合意できると思えない。彼らは非常に手ごわい」と述べ、通商合意がまとまる可能性は低いとの認識を示した。交渉期限の9日が迫っているが「極めて大きな貿易赤字を抱えているため、30%や35%、あるいはわれわれが決める数字」の関税を課すことになるだろうとも言明した。
日系自動車メーカーは価格転嫁に慎重な姿勢を示してきた。現時点で大幅な値上げに踏み切ったのは、SUBARU(スバル)のみ。報道によると、同社は1000-2000ドル(14万-29万円)引き上げる。トヨタ自動車と三菱自動車の引き上げ幅は小幅にとどまり、ホンダと日産自動車、マツダは明確な方針が現時点で明らかになっていない。
価格転嫁を控える戦略は、米国の消費者に値上げによる悪印象を避けることはできても、日米の関税交渉に対しては逆効果になっている可能性もある。自動車調査会社カノラマの宮尾健アナリストは自動車メーカーが現段階で大幅な値上げに踏み切ることで、日米の交渉が好転する可能性もあるとの見方を示す。
トランプ関税により価格が上昇すれば「当然政府としても関税を上げると米国の経済が潤うという単純なシナリオではないと自覚せざるを得ない。それにより関税交渉に関しては変化が出てくる気がする」と宮尾氏は話した。
業界は異なるものの、中国の格安オンライン通販「Temu(テム)」や中国ネット通販「SHEIN(シーイン)」は、関税が課された後にすぐさま価格を引き上げ、トランプ政権に対して、コスト上昇分は米国の消費者が負担するというメッセージを明確に打ち出していた。
輸出単価は下落
トランプ政権は4月に輸入車に対し25%の追加関税を適用後、日本から米国に輸出された自動車の1台当たりの単価は大幅に下落しており、自動車メーカーが実質的にコストを負担しているとみられている。米国との関税交渉で日本の自動車メーカーにとって有利な条件が引き出せない場合、価格転嫁を進めなければ日系自動車メーカーの業績が大幅に悪化することは避けられない。

トランプ大統領は高率関税の賦課についても言及しており、値上げをしなければ大手で今期数千億円規模ともされる利益へのマイナス影響がさらに拡大する可能性もある。
5月の決算発表の時点で、トヨタは4-5月だけで関税が営業利益を1800億円下押しするとの見通しを示している。ホンダは今期(2026年3月期)に関税影響が6500億円の減益要因になると想定している。日産は最大で4500億円の影響があると見込む。
長期間に渡ってコストを負担し続けることは難しく、これまで値上げに慎重姿勢を見せてきた自動車メーカーもいずれ価格転嫁をせざるをえないという見方は根強い。コンサルティング会社、アリックスパートナーズは、自動車関税に伴う300億ドル(約4兆3000億円)のコストの80%が価格転嫁されると予想しており、1台当たりの価格上昇は1760ドルになると試算する。
ブルームバーグ・インテリジェンスの吉田達生シニアアナリストは、関税交渉の結果を受けて日系各社は「本腰を入れて値上げに取り組むことになる。値上げ規模も今までの仕様変更を伴わない価格改定を超える」との見方を示す。ただ、値上げは徐々に行われていくとみられ、25%の追加関税を全て価格転嫁するまで3-4年かかる可能性があると話した。
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