6月のイスラエルと米国による攻撃以降、イランは核開発の計画を従来以上に厳重に秘匿しており、米国との外交的対立にさらなる不透明さを加えている。核計画の現状についての国際社会の理解を曖昧にする手段として、イランは「沈黙」を活用している。

匿名を条件に語った関係者2人によると、イランが先週、国際原子力機関(IAEA)による査察を正式に打ち切った後、同国の原子力安全当局は現在、IAEAからの連絡にも応じていない。IAEAの事故・緊急時対応センターは6月13日以降、イラン側と継続的に連絡を取り合っていたが、情報共有は途絶えている。

これまでイランは、IAEAによる1日平均1回以上の査察を受け入れ、核開発活動を巡り米国と5回の交渉も行っていたが、イスラエルの攻撃で状況が一変した。

戦略

米国のトランプ大統領はこれまで何度も、12日間にわたる空爆によってイランの核施設は「完全に破壊された」と発言している。だが、IAEAのグロッシ事務局長はCBSニュースに対し、ナタンズやフォルドゥの施設が一部損傷を受けたものの、ウラン濃縮活動は「数カ月以内」に再開可能だと語った。

また、イランには理論上核弾頭10発分に相当する、409キログラムの高濃縮ウランが存在するとされるが、その所在も不明だ。大型スキューバ用タンクほどのサイズのシリンダー16本に分けて保管可能なことから、未申告の場所へ移送された可能性も排除できない。

IAEAによる監視再開の見通しが立たない中、米イランの政策担当者たちは、冷戦時代の核の瀬戸際外交で重要な要素だった「戦略的曖昧さ」と呼ばれる手法に再び目を向けている。ノーベル経済学賞受賞者のトーマス・シェリング氏らが提唱したこの理論では、意図に関する不確実性をあえて残すことで、対立相手が全面戦争へと踏み出すのを防げるとされている。

ブルームバーグ・エコノミクス(BE)で中東を担当するディナ・エスファンディアリ氏は「イランが本当に核兵器開発に突き進むかどうかはまだ分からないが、米の空爆で、イランの核計画がさらに秘密裏になることは明らかだ。イランは、戦略的曖昧さこそが自国にとって最善の選択肢だと学びつつある」と指摘した。

次一手

トランプ氏は29日のFOXニュースのインタビューで、和平の確約と引き換えにイランに対する厳しい経済制裁を緩和する用意があると示唆した、ただ、その2日前には自身のソーシャルメディア、トゥルース・ソーシャルで、イランの最高指導者ハメネイ師による勝利宣言に激しく反応し、「制裁緩和に関する作業はすべて打ち切った」と投稿していた。

一方、イラン政府は、米国が仲介したイスラエルとの停戦の持続には懐疑的な姿勢を示しており、もし新たな攻撃があれば報復するとしている。米国との新たな協議の可能性について、イラン政府報道官は1日「いかなる決定も下されていない」と述べた。

再び攻撃されないよう、イランは高濃縮ウランの所在に関する不確実性を利用し、事態の主導権を握ろうとする可能性がある。米国やイスラエルが高濃縮ウランの備蓄の状態や所在地に関する情報を得るためには、IAEAが交渉してアクセスを得た上で、現地査察と検証が必要になるとみられる。

もう一つの選択肢は軍事行動への回帰だが、決して単純な話ではない。イスラエルのスモトリッチ財務相は先週、12日間の戦争のコストが最大で120億ドル(約1兆7200億円)に達した可能性があると述べた。国内の損害額も約30億ドルと、イスラエルの歴史上最大規模の衝突となった可能性があるという。米国では、軍事関与の是非を巡り共和党内の主要勢力が分裂しており、トランプ政権にとっても政治的コストを伴う可能性がある。

現時点で、イランは曖昧さを強めている。同国の監督機関、護憲評議会は先週、IAEAとの協力を停止する法律を承認した。爆撃を受けた核施設には化学的・放射性の汚染リスクがあるため、仮にIAEAの査察官にアクセス権が与えられても、どこまで作業ができるかは不透明だ。

原題:Iran Shuts Out Nuclear Monitors in Tactics Echoing Cold War (1)(抜粋)

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