アイルランド政府は国際競争力を維持するため、財政の余剰資金をインフラ投資に充てる方針だ。世界的な貿易の混乱や関税によって、外資系企業が集中する同国で多くの雇用が脅かされている。

アイルランド財政はこれまでのところ健全で、アップルやファイザーなど米企業からの法人税収によって高水準の財政黒字を計上している。だが、こうした税収の一部が今後失われるリスクもあり、ドノフー財務相は23日、長期的な視点で余裕資金を活用する必要があるとの認識を示した。

ドノフー氏はダブリンで開かれたブルームバーグのイベント「フューチャー・オブ・ファイナンス・イン・アイルランド」で、「世界金融危機後の大きな教訓の一つは、資本投資が減ると将来的にコストが膨らむという点だ」と指摘。「われわれの成長見通しが変われば、財政余力を活用して資本投資の維持・支援を図り、再び削減する事態を防ぐよう全力を挙げる」と述べた。

トランプ米政権による医薬品関税の発動シナリオが主な不安材料、アイルランドのドノフー財務相は7万5000人の雇用が失われる恐れがあると警告

急速に変化する国際情勢を受け、国内雇用を巡る懸念も高まりつつある。トランプ米政権による医薬品関税の発動シナリオが主な不安材料で、ドノフー財務相は7万5000人の雇用が失われる恐れがあると警鐘を鳴らした。

ドノフー氏はアイルランドがなお投資先として魅力的だと強調したものの、政府と中央銀行はリスクを認識せざるを得ない状況だ。トランプ政権の通商政策への依存度の高さを理由に、いずれも経済成長見通しを最近引き下げた。

米政府はアイルランド型モデルを繰り返し批判しており、ラトニック商務長官はアイルランドが米国を犠牲にして黒字を計上していると主張。トランプ大統領も3月に訪米したマーティン首相に同じ問題を取り上げた。

トランプ氏の政策がアイルランドなど欧州諸国に新たな脅威となる一方、各国政府は競争力強化の好機とも捉えている。ドイツが財政出動にかじを切ったほか、米国の政策でドルへの信頼感が揺らぐ中、欧州の中央銀行や政治家はユーロの国際的地位を高めようと試みている。

アムンディのマルチアセットソリューションズ世界責任者、ジョン・オトゥール氏は「米国の政治イベントが欧州を触発し、状況は変わりつつある。欧州は今、自立の道を歩み始めている」と述べた。

原題:Ireland Warns Thousands of Jobs at Risk From Pharma Tariffs (2)(抜粋)

--取材協力:Jennifer Duggan.

もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp

©2025 Bloomberg L.P.