(ブルームバーグ):米国による関税強化を受け、中国が対抗の意味合いも含めてレアアース(希土類)の販売を制限する中、大同特殊鋼など自動車メーカーに製品を納入する日本の特殊鋼メーカーは最も大きな打撃を受ける業種の一つだ。
トランプ大統領の下で米国は海外製の自動車と自動車部品にそれぞれ25%の関税をかけている。米国は、これとは別に鉄鋼とアルミニウムの輸入に対する関税を今月に入って50%に引き上げた。日米政府の交渉次第で状況が変わる可能性も残るが、国内生産も多い同社としては逃げ場がなくなりつつある状況だ。
大同特殊鋼の清水哲也社長は名古屋市の本社でのインタビューで、鉄鋼・アルミに25%の関税が課された3月の時点では顧客に受け入れられる手応えがあったと明かす。自社の製品が顧客に高く評価されているという自信があったからだ。しかしその後に同関税が倍増されたことで、状況は一変した。

清水氏は「もうビジネスとして成立しない」という感覚があり、顧客が発注や生産減を検討し始めることで「全体的な不景気な状況になってきてしまう方のリスク」も出ており、「業績的にも厳しくなってくる」と考えているという。
大同特殊鋼の製品は主に日本の自動車メーカー向け。日系自動車の多くは米国を主力市場とし、関税により総額190億ドル(約2兆8000億円)を超える利益が削られると予測されている。同社の苦境は米中の超大国を巻き込む貿易戦争が自動車業界に及ぼす影響は甚大で、トヨタ自動車や米フォードなど大手自動車メーカーが予測する個社としての損失以上に広がりを持っていることを示している。
日本の自動車メーカーの中には、すでに米国での現地生産拡大といった動きが出ており、大同特殊鋼のようなサプライヤーは、顧客の変化に振り回されている。同社は5月、今期(2026年3月期)の通期業績予想を、現時点で「合理的な業績予想が困難」だとして見送り、4-9月(上期)の純利益が前年同期比で34%減少する見通しを示した。
中国依存脱却を
そこに中国によるレアアース輸出の制限強化が追い打ちをかけるかたちとなった。大同特殊鋼はハイブリッド車など電動車モーター用の磁石を手掛けているが、レアアースはその製造に欠かせない鉱物だ。現在、中国はレアアースの採掘で約70%、精製では約90%を世界で占めている。
大同特殊鋼は中国以外からのレアアース供給ルートの再構築に迫られている。清水社長によると、新たな供給ルートはオーストラリアを中心に形成され始めており、米国、カナダ、ブラジルにも可能性があるという。しかし、コストの高さと供給量の少なさから進展は遅れており、中国依存の脱却が難しいことを物語っている。
同社は代替供給の確保と並行して使用するレアアースの削減にも注力している。その代表例が、重希土類元素であるジスプロシウムやテルビウムを含まないネオジム磁石で、16年からホンダで採用されている。
同社はこうした磁石の生産と用途拡大を目指しており、非中国製供給への需要が高まると見ている。また、米国内での製造拠点設立も計画しているが、具体的な時期や場所は明かされていない。
「彼らは壁を築き始めた」。清水社長はこう表現する。「これは世界経済の安定性に甚大な影響を及ぼす」との不安を抱きつつも会社として対策を急ぐ考えを示した。
もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
©2025 Bloomberg L.P.