(ブルームバーグ):トランプ大統領による関税措置を見越して自動車購入を急ぐ米国の消費者を待ち受けるのは、不都合な現実だ。貿易戦争の影響で自動車価格はすでに上昇しているが、その多くは消費者にとってほとんど見えない形で進行している。
新車の表示価格は、少なくとも現時点では大きく変わっていない。しかし自動車メーカー各社は、表向きは価格を据え置いているとしながらも、リベート削減や低金利ローン適用条件の厳格化を水面下で進めており、結果として購入者の月々の支払額は数百ドル単位で増加している。自動車市場調査会社エドマンズ・ドット・コムによれば、新車購入時に顧客が負担する「デリバリー費用」を40〜400ドル引き上げたメーカーも複数ある。
こうした「ステルス値上げ」は、自動車メーカーが25%関税に対応する上で有効な手段である可能性がある。各社には、小売大手ウォルマートが貿易戦争の影響で値上げを余儀なくされたと発表した際、トランプ氏から受けたような激しい非難を回避したいとも思惑もあるようだ。
しかし、自動車業界による目立たぬ値上げは、すでに市場に影響を及ぼし始めている。自動車情報のケリー・ブルーブックによると、新車の平均販売価格は4月に2.5%上昇し、月次上昇率としては5年ぶりの大きさを記録。平均価格は4万8699ドル(約705万円)に達し、ほぼ過去最高水準となった。かつて車両価格の10%に相当する水準まで提供されていた販売インセンティブは、足元では6.7%に低下。高金利時代における主要な販売促進策だったゼロ金利ローンの適用比率も、4月には2019年以来の低水準に落ち込んだ。
カンザス州でフォードの販売店を経営するモリス・スミス氏は「消費者の立場から見ると実際の負担は数千ドル増えているのに、メーカー側は『いや、価格は全く上げていない』と言っている。ステルス値上げという言葉がぴったりだ」と語った。
こうした措置で自動車各社はこれまで目立った値上げを回避してきたが、今後は本格的な価格引き上げが避けられそうにない。フォードはメキシコで生産する3車種、ピックアップトラックの「マーベリック」、スポーツタイプ多目的車(SUV)「ブロンコ・スポーツ」、電気自動車(EV)の「マスタング・マッハE」について、販売表示価格を最大2000ドル引き上げる方針を販売店に通知した。事情に詳しい関係者によれば、スバルは関税負担を相殺する目的で1000-2000ドルの値上げを実施しているという。
他の自動車メーカーも、この夏から秋にかけて順次投入予定の2026年モデルで価格を引き上げつつある。ただ、その理由については関税への対応ではなく、年式変更に伴う価格調整だと説明している。
バンク・オブ・アメリカ(BofA)のアナリスト、ジョン・マーフィー氏は「新型車で価格が高くなるのは、厳密には『値上げ』とは言えない」と指摘。「そのため、価格引き上げに敏感に反応する人たちからの厳しい非難を受けることも回避できる」と語った。
こうした動きは販売不振を招く可能性がある。自動車情報サイトのカーエッジ・ドット・コムによる最近の調査によれば、月々の支払いが5%上昇した場合に新車購入を取りやめると回答した消費者の割合は全体の65%に上った。
原題:Carmakers Use Stealth Price Hikes to Cope With Trump’s Tariffs(抜粋)
--取材協力:ドーソン・チェスター.
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