3日の韓国大統領選に勝利した革新系最大野党・共に民主党の李在明氏。頑固で異端の政治家として、これまでに逆境から何度も立ち上がり、戦いを続けてきた。

2024年初め、訪問先の釜山市で襲撃され、首を刺された李氏は、病院の集中治療室で生死をさまよっていた。これを機に公職から退く判断をしても不思議ではなかったが、逆境こそが李氏を奮い立たせた。

同じ年に暗殺未遂に遭った米国の現大統領ドナルド・トランプ氏と同様、李氏も挫折や反対勢力の存在を政治的資産とモチベーションに変える人物で、あきらめるという選択肢を持たない。

「国民に命を救われた以上、その命をすべて国民のためにささげる」と、李氏は襲撃から8日後に退院した際に語った。「敬意と共存に基づく政治を取り戻せるなら、それに残りの人生を費やしても悔いはない」とした。

夫人と共に党のイベントに登場した李在明氏(ソウル、6月4日夜)

李氏のポピュリスト的な語り口は、時にトランプ米大統領と比較されることもあるが、過去の政策はバーニー・サンダース米上院議員のような進歩的価値観により近かった。

しかし、6カ月前の尹錫悦前大統領による「非常戒厳」宣布を受けた混乱を追い風とした李氏は、着実に中道に歩み寄ってきた。この変化は、大統領の座を目前にした李氏の執念を物語っている。3年前、保守派の尹氏に僅差で敗れた苦い経験がその背景にある。

経済成長の回復や国家の団結、さらには米トランプ政権との貿易や駐留米軍に関する交渉に取り組む覚悟を見せる李氏には、粘り強さと献身性があると評価される一方、評価が極端に分かれるその個性が最大の障害になり得る。

梨花女子大学のレイフ・エリック・イーザリ教授は、「法的スキャンダルや野党としての物議を醸す戦術、さらには命の脅威を受けながらも、彼は生き残ってきた政治家だ。だが、彼の勝利は特定の政策によるものではなく、尹政権の劇的な崩壊による面が大きい」と指摘する。

中央選挙管理委員会が発表した最終集計によれば、李氏の得票率は49.4%、保守系与党・国民の力の金文洙・前雇用労働相は41.2%だった。

中央選挙管理委は4日午前、開票結果に基づき、李氏を大統領当選者として正式に確定。聯合ニュースによると、ソウル時間午前11時(日本時間同じ)に就任宣誓を行う。

李氏は今回の選挙戦で、より柔軟で成熟したリーダー像を打ち出し、緊張が高まる安全保障環境の中でアジア4位の経済大国を率いる能力を示そうとした。かつて主張していたベーシックインカム導入や医療無償化、さらには米国や日本に対するかつての強硬な発言から距離を置いている。

出口調査の結果に反応する李在明氏の支持者(ソウル)

李氏の政権は、公共支出の拡大や労働者保護の強化、家族経営の巨大複合企業への規制強化といった政策を推進する見通しだが、かつて描いていたほどの急進的改革には踏み込まない見込みだ。李氏はさらに、大統領の任期を2期制にする憲法改正や、石炭火力発電所の廃止に賛成の立場だ。

外交政策でも、李氏は従来の強硬姿勢を抑え、米国・日本との三国連携を強化する姿勢を見せている。ただ、米国と中国の間でバランスを取ることを志向し、北朝鮮との対話再開にも意欲を見せている。

野党勢力との対立で国会運営の停滞に直面していた尹前大統領は戒厳令という衝撃的な手段に打って出た。しかし、昨年の総選挙で改選前に既に過半数を握っていた「共に民主党」が議席をさらに伸ばしたため、李氏は尹前大統領より国会審議を円滑に進められる見通しだ。

一方で李氏は、不動産開発業者への便宜供与や公金の私的流用、公職選挙法違反など複数のスキャンダルや法的な問題を抱えている。李氏は一貫して不正を否定し、訴訟は政治的な意図に基づいているものだと主張している。

こうした問題は大統領在任中、棚上げされる可能性もあるが専門家はグレーゾーンだとしている。

暴漢に襲われた李在明氏(釜山市、2024年1月)

ソウルの南東約20キロに位置する城南(ソンナム)市でブルーカラーの貧しい家庭で育った李氏。小学校を卒業して12歳頃から家計を助けるためネックレス工場で働き始めたが、事故でひじを機械に押しつぶされ、左腕は今も曲がったままとなっている。

中等教育も受けられないという逆境をはねのけ独学で司法試験に合格。20代前半で弁護士となり労働運動家として活動した。

2010年から18年までの城南市長時代には公的医療サービスの拡充、犬の処分施設の閉鎖、若者向けベーシックインカム制度の試験導入などで名前が知られるようになった。

原題:Outspoken South Korea Leftist Survived Stabbing on Path to Power(抜粋)

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--取材協力:Denny Thomas.

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