運用資産1兆8000億ドル(約259兆円)を誇るノルウェー政府系ファンド(SWF)のトップが、人工知能(AI)を活用しない職員には、同ファンドでの将来はないと明言した。

ノルウェー政府年金基金グローバルのニコライ・タンゲン最高経営責任者(CEO)は最近、AIの導入により人員の増加を当面抑制できると議会で説明。2022年から職員約670人にAI活用を進めるよう「マニアック」に働きかけているという。

ニコライ・タンゲン氏(5月26日)

「AIを使うかどうかは選択の問題ではない」とタンゲン氏(58)はインタビューで語った。「使わなければ昇進はないし、採用もされない」と言い切った。

AIは資産運用業界で急速に不可欠となっており、効率向上やコスト削減、意思決定の優位性確保を目的に、多くの投資会社が導入を加速させている。トレーディングデスクや調査チーム、バックオフィスなどさまざまな領域にAIが組み込まれている。

AI導入の影響を懸念する声もある一方で、タンゲン氏は職員がAIを十分に活用しないことを主に懸念している。同氏は講演やセミナー、ポッドキャストなどあらゆる場面でAIの有用性を訴えることで国内ではよく知られている。

タンゲン氏は「何度も何度も繰り返し、あらゆる方向から組織に働きかける必要がある」と主張。現在では6人の「AI推進担当」、40人の「AIアンバサダー」が活動し、セミナーや講座も頻繁に開催されている。同氏によると、約300人の職員がAIの助けを借りてプログラミングを行っているという。

ニコライ・タンゲン氏

「導入初期の抵抗には驚かされた。人は変化を嫌うものだ」と振り返り、「任意だと何もしない人が常に10-20%はいる。でも本当にAIを必要としているのは、そういう人たちだ」と語った。

ファンド内の調査によると、職員の業務効率は昨年15%向上したとされており、タンゲン氏は25年に20%、26年もさらに20%の改善を見込んでいる。その話になると、声が大きくなり、表情も明るくなる。

「AIを使っていない企業と競えば、われわれは50%も先を行ける。これは驚異的だ。絶対に追い付かれない」と強調。「取引コストも大きく節約しており、今後はさらに効果が出る」と語った。

同ファンドで使われている主なツールには、職員全員が使用するアンスロピックの「Claude」、そのほかマイクロソフトの「Copilot」、「Perplexity」、オープンAIの「Deep Research」、グーグルAIなどがある。

利用には制約

ノルウェーSWFはノルウェー中央銀行が保有し、財務省が策定したガイドラインに従って運営されている。従って、AI活用には一定の制約があるとタンゲン氏は言う。

「人間が関与する」ことが求められており、AIが独自に取引を行うことはなく、採用判断に使われることもない。

タンゲン氏は「取引の判断は常に人間が行う。将来的にもそれが変わるとは思わない。ただし、情報収集にはAIを活用している」と述べ、アナリストの役割は既に限定的だとも語った。

職員の退職に際しては、テクノロジーに強い新たな人材で補充する方針だとし、AIで生まれた時間は「より深く考え、より良い意思決定を下すために使うべきだ」と述べた。

原題:Norway Wealth Fund Chief Tells Staff That Using AI Is a Must(抜粋)

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