(ブルームバーグ):アンドレ・リウ氏が設立した台湾のクオンツ運用会社、UCキャピタルは2021年の独立以来、年間51%という驚異的なリターンを記録し、市場参加者から注目を集めている。
同社は昨年10月、米大リーグで1シーズンに50本塁打・50盗塁という偉業を達成した大谷翔平選手の快挙を記念するボールの購入者として名乗りを上げ、脚光を浴びた。
439万ドル(約6億3000万円)でのボール購入と、それまで秘匿されていた同社の表舞台への登場は、いずれも緻密に計算された戦略だった。
JPモルガン・アセット・マネジメントの元アナリストであるリウ氏はインタビューで、トップクラスの人材をUCに呼び込み、世界有数のヘッジファンドやトレーディング会社に匹敵するリターンを維持したいと語った。
リウ氏がブルームバーグに開示した社内資料によると、台北に本社を構えるUCは、21年以降、年平均51%の内部収益率(IRR)を記録している。
ただ、リウ氏によればUCが控えめな存在であることが台湾での人材採用を難しくしている。台湾では有望な若手人材の多くが、台湾積体電路製造(TSMC)や聯発科技(メディアテック)といった半導体大手を志望する傾向があるためだ。
「テック業界の魅力はあまりに強過ぎる」とリウ氏(44)は嘆く。「多くの伝統的な台湾の家庭では、金融投資やトレーディングはまともな職業とは見なされていない」とも語った。同氏はこうした認識を変えたいと考えている。
大谷翔平選手の「50本塁打・50盗塁記念ボール」購入もPR戦略の一環だった。

リウ氏はUCの唯一の所有者であり、同社は株式、上場投資信託(ETF)、デリバティブを大量に取引している。戦略は全てデータ主導型・アルゴリズム型で構成されている。
リウ氏によれば、同社の流動資産は約150億台湾ドル(720億円)で、現金・株式・ETF・デリバティブなどを含む。ただし、この金額は、UCが市場で持つ実際の存在感と影響力を反映していない。 同社は通常、3倍のレバレッジをかけて取引を行い、非常にアクティブな戦略を多数展開しているためだ。
地元の中堅証券会社である統一証券の機関投資家営業責任者、ショーン・ワン氏はUSについて「取引量ベースでは台湾で最大の単一クオンツファンドだ」と語った。

UCのトレーダーたちは昨年、「人は希少なモノに対して過剰に支払いやすい」という投資仮説を立てたとリウ氏は語る。その発想を、希少性ゆえに価値が高い「実物資産」に応用しようと考えた。
チームは人工知能(AI)ツールを使ってオークションに出品されている美術品や収集品のリストを作成。マイケル・ジョーダン選手の背番号23のバスケットボールジャージや日本人アーティスト、奈良美智氏の絵画などを検討対象とした。
結局、大谷翔平選手の「50本塁打・50盗塁」記念ボールが最も高いリターンをもたらす可能性があると判断し、競り落とした。
この記念ボールは昨年、台北101展望台で一般公開された。現在UCは、購入に関心を示している複数の日本企業と売却交渉を進めているという。

リウ氏は、利益の5%を技術インフラやAIの強化に再投資する計画であることを明かしたが、「それ以上に重要なのは、先手を取り続けるための優秀な人材の確保だ」と語っている。次なる目標として今夏8-10人のインターンを受け入れることを挙げた。
「この業界には新しい発想が必要だ」と、リウ氏は語った。
原題:Ex-JPMorgan Analyst Builds 51%-a-Year Quant Powerhouse in Taiwan(抜粋)
--取材協力:林妙容、Justina Lee.
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