(ブルームバーグ):豊田自動織機株を保有する英ゼナーアセットマネジメントは、トヨタ自動車の豊田章男会長ら創業家による買収提案にはガバナンス(統治)上の問題があり、少数株主の利益を損なうリスクがあるとみている。
ゼナー創業パートナーのデービッド・ミッチンソン氏は、報道されている6兆円規模の買収計画について、豊田織が保有する不動産や株式の含み益などを考慮すると、同社の価値を過小評価している恐れがあると指摘。特別委員会はトヨタが主体となる買収を含む他の選択肢も検討するべきだとブルームバーグの取材で述べた。

ブルームバーグは4月、トヨタ創業家が豊田織に非公開化を前提とした買収提案を行ったと報道。買収資金として章男氏個人やトヨタなどによる出資のほか、3メガバンクからの融資を活用する案が浮上していると伝えた。共同通信は19日、豊田織が同提案を受け入れる方針を5、6月にも公表する見通しだと報じた。
ミッチンソン氏は、この取引が公正で妥当な水準だと人々が納得するには、経済的な整合性が十分に取れている必要があると話す。そうでなければ、大幅に割安な買収で、単に章男氏にトヨタの支配権を強めさせるための取引に過ぎないと見なされてしまうと言う。ミッチンソン氏によると、ゼナーは豊田織株を35万株超保有する。
国内企業の株式公開買い付け(TOB)が高水準で推移する中、買収の行方は日本で少数株主の利益保護が適切に図られているかどうかを見極める試金石となる。東京証券取引所は経営陣が参加する買収(MBO)などを通じた企業の非上場化に関し、株式価値算定の前提条件を開示することを求めると2月に発表した。
トヨタの広報担当者は豊田織の非公開化に一部出資をすることも含め、現在さまざまな可能性を検討しているとし、現時点で決定した事実はないとブルームバーグの取材に答えた。豊田織からはコメントを得られていない。
ミッチンソン氏は、豊田織が保有するトヨタ株には膨大な含み益があるため、創業家などが買い手になると繰り延べ税負債が発生し、TOB価格を押し下げる要因になると指摘する。一方、トヨタが買収主体となった場合は自己株の取得となり譲渡益課税が発生せず、より高い評価額につながるため、幅広い株主にとって有益だとの見方を示した。
創業家の提案を歓迎する株主もいる。米ダルトン・インベストメンツは、章男氏の試みは長期的には株主を優先させることにつながると指摘し、創業家による買収案への支持を表明している。
ブルームバーグ・インテリジェンスの吉田達生シニアアナリストは、買収で経営がブラックボックス状態になると、透明性や独立性が脅かされることへの懸念が生じる半面、外部の投資家や市場からの短期的な圧力に影響されにくくなると話す。
ミッチンソン氏は、買収案は今のところ報道ベースで不透明な部分が残るとした上で、「潜在的な取引そのものに反対しているわけではないが、それが章男氏やトヨタへの価値の移転につながるような形であってはならない」と述べた。
会社側の公表資料によると、豊田織は昨年9月末時点でトヨタの発行済み株式の約9.1%を保有。決算短信によると、2025年3月期の有形固定資産は約1兆5400億円だった。
--取材協力:高橋ニコラス.
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