(ブルームバーグ):増加する中国からの鉄鋼輸入に対し通商措置を今すぐ講じなければ手遅れになる。日本製鉄の森高広副会長兼副社長はそう警鐘を鳴らす。
森氏は19日のインタビューで、中国の輸出増加による市況悪化は「これが終わりではない」と指摘した。鉄鋼業界全体で既に約30兆円の利益が「蒸発した」と言われている。輸入増加で国内のサプライチェーン(供給網)がいったん破壊されれば、元には戻らなくなると危機感を示し、懸念については日本政府にも伝えているという。
不動産不況で内需が低迷する中国からの鉄鋼輸出増加を受け、米国や欧州連合(EU)、アジア各国では反ダンピング(不当廉売)やセーフガード(緊急輸入制限)などの対抗措置を取る動きが広がっている。日本は世界貿易機関(WTO)ルールを重視し慎重な姿勢で臨んできたが、国内の鉄鋼業界への収益圧迫が続けば措置導入の可能性は高まる。
既に人口減少に転じている中国の内需はさらに減少すると見られているが、雇用維持の観点などから中国が生産能力の削減に踏み切るとは考えにくく、「ますます輸出が増える」と森氏は予想。過剰生産による構造的な問題は「より悪化する」と警戒感を示した。

中国からの輸出増加に加え、トランプ政権による関税政策により日鉄を取り巻く経営環境は厳しさを増している。同社は今期(2026年3月期)事業利益を前期比42%減の4000億円と見込む。
米国は、今後も人口増加に伴い成長が期待できるほか、日鉄が最も得意とする高級鋼の最大市場だ。逆風が吹く環境だからこそ、日鉄にとってUSスチールを買収することで関税による悪影響を受けない「インサイダーになることが重要」と述べた。
USスチール買収を巡ってはトランプ米大統領が4月に対米外国投資委員会(CFIUS)に再審査を命じており、21日までに審査結果を報告する予定となっている。日鉄は141億ドル(約2兆円)の買収完了後に製鉄所などへ投資する額を徐々に引き上げており、今週には日鉄が140億ドルを投資する方針だと報じられた。
買収交渉を担当する森氏は、増額した投資に対するリターンは「ますます見合うようになっている」と説明し、買収が割高になる懸念はないとの考えを示した。その上で、「われわれは採算の取れない投資はしない」と強調した。
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