欧州連合(EU)と英国は19日、ロンドンで首脳会議を開き、離脱後の関係構築に向け、防衛や通商を巡り協力を強化することで合意した。ただ、英国のスターマー首相にとっては、漁業権などを巡る合意が政治的リスクになりかねない。

EUが、英国からの食品・農産物に対する国境検査の大部分を撤廃する代わりに、英国は漁業権を延長することに合意した。軍事協力に関する重要な協定も発表し、英国によるEUの1500億ユーロ(約2450億円)規模の防衛基金へのアクセスに向けて取り組むことでも一致した。空港の電子ゲートでの受け入れ、欧州の若者の国境を越えた居住、就労、就学などの問題についても、合意を目指すという。

EUの執行機関、欧州委員会のフォンデアライエン委員長は、コスタ欧州理事会常任議長(EU大統領)、スターマー氏との記者会見で「世界が不安定な状況にあり、私たちの大陸がこの数世代で最大の脅威に直面する今、欧州は団結している」と結束を強調した。

スターマー氏は、今回の合意が英国の消費者と企業にとって良いものになると述べ、「英国は、経済成長につながる合意をパートナーと締結し、世界舞台に復帰した」と力を込めた。

防衛・安全保障協定の一環として、EUと英国は、情報共有、海洋・宇宙安全保障を含む多様な分野での協力のためのプラットフォームを設立する。EUは、英国がEUの共同調達防衛基金にアクセスする方法を、迅速に検討すると約束した。

英EUの共同声明では、対ロシアとの戦争を巡るウクライナへの支持も改めて表明した。声明によると、英国の外相と国防相は、EU外交安全保障上級代表(EU外相)と6カ月ごとに政策対話を行う。

英国のスターマー首相は、欧州連合のフォンデアライエン欧州委員長、コスタ欧州理事会常任議長と首脳会談を行った

政治的リスク

英国政府は、低迷する経済成長率の改善を公約しており、EUとの貿易障壁の緩和が輸出業者にとって極めて重要と考えている。今回の合意により、英国の国内総生産(GDP)は2040年までに約90億ポンド(約1兆7400億円)押し上げられると見込まれる。

離脱後のEUとの関係の「リセット」を狙った今回の合意は、インドとの貿易協定、トランプ大統領が課した関税の引き下げに関する米国との合意に続くものだ。EUとの貿易強化による経済効果は、米国の関税引き上げに伴う対米輸出のコストをほぼ相殺する。

ただ、漁業権の合意により、欧州の漁船は英国の海域で2038年まで操業できるようになった。ファラージ党首率いる右派「リフォームUK」の脅威に直面しているスターマー氏にとっては、政治的にリスクとなる可能性がある。

漁業は英国の国内総生産(GDP)の0.04%に過ぎないが、英国では象徴的な問題であり、スターマー氏が取り付けた合意は、英国のEU離脱交渉の後半で見られた緊張を再燃させたようだ。保守党のベイドノック党首は、英国側がEUの漁業権の延長期間を4年と主張していたことに触れ、X(旧ツイッター)に「私たちは再びブリュッセルのルールに従う者になってしまう」と投稿した。ファラージ氏はブルームバーグニュースに対し、漁業権での今回の合意は「この産業の終わり」につながると述べた。

原題:Starmer’s Reset Hailed by EU Chiefs, Slammed by UK Conservatives(抜粋)

(会談後の首脳らの発言などを加え更新します)

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