米経済の産業構造は変化しても、経済構造の変化は困難と考えられる
最後に、そもそも米国の貿易赤字や経常赤字が黒字化することは容易ではないだろう。
トランプ政権の本当の狙いについては様々な見方がある状況だが、トランプ政権は産業構造を変化させようとしている一方で、米経済の構造を大きく変えることにはそれほど積極的ではないと、筆者はみている。ここで、産業構造の変化というのは、安全保障の観点から製造業を再強化するという議論である。関税や各国とのディールによってこれを進めようとしていることは明らかである。
一方、米経済の構造を大きく変えるような可能性は高くない。トランプ大統領はFRBに対して利下げを強く求めているが、現在の米経済はFRBの金融政策に強く依存しており、市場ではモラルハザード(FRBプットへの期待)の状態にある可能性が高い。その結果、ダウンサイド・リスクが著しく低下し、米経済全体としては構造変化や新陳代謝のチャンスを逃していると、筆者はみている。おそらくトランプ氏の性格から、短期的な痛みを受け入れることができない状況と言え、米経済の構造変化は生じにくくなっているように思われる。このような状況では、米国の双子の赤字が解消される可能性は低く、「トリフィンのジレンマ」を心配することは取り越し苦労となるだろう。
(※情報提供、記事執筆:大和証券 チーフエコノミスト 末廣徹)