関税政策
トランプ大統領は、貿易赤字の解消を狙って、相互関税、自動車・鉄鋼アルミの追加関税を実施している。こうした関税発動には、米国のインフレ加速につながるという批判もある。その点について、ミラン論文では次のようにしている。
▼トランプ関税は、2018・2019年に中国に対して実行されて、成功した経験がある。関税政策は、インフレを発生させず、目立ったマクロ経済的な悪影響をもたらさなかった。中国への関税を例にとると、2018・2019年は米国が17.9%の関税を課した。それに対して人民元は▲13.7%減価し、ドル建ての輸入価格は4.1%しか上昇しなかった。関税率引き上げの効果は、人民元切り下げでオフセット(▲76%)されるかたちになった。貿易戦争によるインフレはごく限定的だったという教訓である。もう一方で、米国政府は関税政策で歳入を増やすことができた。

▼関税率の引き上げを、自国通貨の切り下げでオフセットした貿易相手国(輸出国)は、通貨安で輸入価格が値上がりするため、その国民が貧しくなる(交易条件悪化)。だから間接的に、米国に税金を支払っていることになる。
▼一方で、仮に、貿易相手国が通貨切り下げを行わない場合は、輸入業者が利益を圧縮される。米国の消費者が高い価格を支払うことになる。それでも、時間とともに輸入業者は、割高な輸入品を別の製品に代替するから、貿易赤字は解消に向かっていく。
▼関税政策は、国家安全保障と貿易を一体化して考えることができる。米国からの視点でみると、防衛の傘の下に入りたい国々は、関税率を支払ってでも、現在の貿易システムの傘の下に入った方がよいと言える。同盟国は、より高い関税率を支払ったとしても、それはそれほどひどいことではない。
▼国々は、同盟国、敵国、中立貿易相手国に区分する。同盟国は、安全保障と経済の傘の下にあるため、負担の分担(関税率)は大きくなる。その代わりに、取引や為替などに関する有利な貿易条件を享受できるようにする。