16日の米金融市場では、株式相場が大幅続落となり、国債相場が上昇。パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長が講演で、貿易摩擦が金融政策に及ぼすリスクに言及したことで、相場のボラティリティーが再び高まった。

S&P500種株価指数は議長の講演中に下げ幅を拡大。金相場は大幅に上昇した。

株式相場は前日まで2日ほど比較的落ち着いていたが、再び大きな変動に見舞われた。パウエル議長は市場を落ち着かせるために急いで行動を起こすことはないと示唆し、市場の一部にあった救済への期待が後退した。

パウエル氏は市場安定のためにFRBが介入する「Fedプット」を想定しているかを問われ、「ノー」と答えた。トランプ大統領の政策が及ぼす影響には多くの不明点があるとし、「まだそれについて分からず、分かるまで適切な判断を下すことはできない」と述べた。

これより前、クリーブランド連銀のハマック総裁は、関税やその他の政策変更による経済への影響が一段と明確になるまで、政策金利を現行水準に据え置くことに論拠があるとの見解を示した。

ウェルズ・ファーゴ・インベストメント・インスティテュートのサミーア・サマナ氏は「市場はある種の『プット』を求めている。トランプ・プットとFRBプット、どちらでも良い」と指摘。「そのどちらも現時点で市場を失望させている。そうした状況下でマクロ面や関税問題を考えると、リスク資産を取得・保有するのは困難だ」と話した。

EPウェルス・アドバイザーズの投資マネジングディレクター、アダム・フィリップス氏も「近いうちに金融政策による市場支援が行われると期待すべきではない」と述べた。

この日は特にテクノロジー株が売られ、ナスダック100指数は3%安で引けた。

トランプ政権がエヌビディアによる中国への半導体輸出に新たな規制を設けたことが響いた。エヌビディア株は6.9%安。一時は10%余り下げた。

アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)も大幅安。半導体製造装置メーカー、ASMLホールディングの受注高が市場予想を下回ったこともセンチメントを悪化させた。フィラデルフィア半導体株指数は4.1%安となった。

ソラス・オルタナティブ・アセット・マネジメントのチーフストラテジスト、ダン・グリーンハウス氏は「ここ数年、大型ハイテク株が株式相場全般の上昇に重要な役割を果たしてきたことを考えると、こうしたニュースが憂慮すべきものであることは言うまでもない」と述べた。

世界貿易機関(WTO)は2025年の貿易量予想を下方修正した。米国による関税引き上げや全般的な不確実性が国際通商に打撃を与えている。

中国は、米国との貿易交渉に応じる前にトランプ政権が中国に対して敬意を示すことや、米国が大統領による支持を受けた交渉責任者を指名することを望んでいる。

UBSグローバル・ウェルス・マネジメントのソリタ・マルチェリ氏は「通商交渉はいずれ進展すると予想しているが、米中の瀬戸際政策は当面続きそうだ」と述べた。

IURキャピタルのガレス・ライアン氏は「米国のリスク資産に対するセンチメントは、長期にわたって後遺症が残る兆しを示している。今後の90日間に、米国の主要な貿易相手国・地域との通商交渉で顕著な進展が見られなければ、株式相場は荒れた夏場を迎えることになるかもしれない」と述べた。

国債

米国債相場は上昇。パウエル議長の講演を受けて株式相場が下落するにつれ、利回りが低下幅を拡大する展開だった。

パウエル議長は、景気軟化とインフレの高止まりが同時に起きた場合、FRBの2大責務が相反する状況に陥る可能性があると述べた。

10年債利回りは一時7ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)低下し、4.26%を付けた。2年債利回りも7bp余り低下する場面があった。

この日行われた20年債入札は堅調な需要を集めた。

米経済統計では、3月の小売売上高が前月比1.4%増と、約2年ぶりの大幅増。自動車販売の急増が寄与した。自動車関税が引き上げられる前に、消費者が購入を急いだことが示唆される。

外為

外国為替市場ではドル指数が下落し、およそ半年ぶりの安値を付けた。トランプ政権の関税政策がドルへの信認を損なっている兆候が示される中、リスク回避からドルは主要10通貨に対して下げた。

ブルームバーグ・ドル・スポット指数は一時、0.8%下げた。

トランプ氏は15日、重要鉱物への関税の必要性について調査開始を指示する大統領令に署名。また、米中貿易摩擦の解決に向けた交渉を開始するには中国側からの接触が必要との見解を示した。

ブラウン・ブラザース・ハリマン(BBH)のストラテジストであるウィン・シン、エリアス・ハダッド両氏は、ドルの軟調は続くと予想。「最近のドル安の多くは、米政策当局者に対する信頼がますます失われていることが原因だと引き続き考えている」と述べた。

三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)のグローバル市場調査責任者、デレク・ハルペニー氏は、エヌビディアのAIアクセラレータ「H20」製品が米国の対中輸出規制の対象になるとの報道も、ドル相場への重しとの見方を示した。

円は対ドルで一時1.1%上昇し、141円65銭を付けた。パウエルFRB議長の講演を受けて上げ幅を拡大した。

カナダ・ドルは米ドルに対して上昇。カナダ銀行(中央銀行)が政策金利の据え置きを決めた。

原油

ニューヨーク原油先物は反発。米中貿易戦争が緩和する兆しを好感して買いが入った。米国とイランによる核協議の停滞も支援材料。

ウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)先物はバレル当たり62.50ドル近くで終えた。中国が協議に応じる用意を示唆したことが買いを誘った。上昇は過去4営業日で3回目。

イランはウラン濃縮に関する米国との交渉に巻き込まれないと表明し、イラン産原油への輸出制限緩和の可能性が後退した。

NY原油先物

イラクは石油輸出国機構(OPEC)と非加盟産油国で構成される「OPECプラス」の生産目標を順守するよう圧力が高まる中、今月の原油輸出を削減する計画だ。事情に詳しい当局者によると、輸出量を日量7万バレル削減する方針。

米政府の在庫統計も支援材料となった。WTIの受け渡し拠点であるオクラホマ州クッシングの在庫は約65万バレル減少し、2008年以来の低水準となった。ガソリン在庫も減少。

ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のWTI先物5月限は、1.14ドル(1.9%)高い1バレル=62.47ドルで引けた。ロンドンICEの北海ブレント6月限は1.8%高の65.85ドル。

ニューヨーク金相場は大幅続伸し、最高値を更新した。ドル安に加え、トランプ米大統領が貿易戦争の新たな局面を開く可能性のある調査を命じたことを受け、安全資産としての需要が高まった。

金スポット相場は一時3.2%上昇し、オンス当たり3300ドルの節目を初めて突破、前日に付けた過去最高値を上回った。

金スポット

金価格は今年に入って26%余り上昇。貿易戦争の激化による世界的なリセッション(景気後退)への懸念が高まる中、最高値更新を続けている。米政府が発表する関税政策が予測不可能なため、投資家が長期的なポジションを構築するのに苦慮していることも背景にある。

ブラックロックのテーマ・セクター別投資グローバル責任者、イビー・ハンブロ氏はブルームバーグテレビジョンで「金市場はこの不透明な時期に活況を呈しているが、その基盤は極めて現実的で確固たるものだ」と述べた。

金スポット価格はニューヨーク時間午後2時7分現在、102.26ドル(3.2%)上げて1オンス=3332.98ドル。ニューヨーク商品取引所(COMEX)の金先物6月限は106ドル(3.3%)高い3346.40ドルで引けた。

原題:Stocks Calm Broken After ‘Fed Put’ Hopes Dashed: Markets Wrap(抜粋)

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--取材協力:John Viljoen、Winnie Hsu、Lin Zhu、Abhishek Vishnoi、Anand Krishnamoorthy、Julien Ponthus.

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