16日の日本市場は超長期を中心に金利が急低下(債券価格は上昇)。米中を中心とする貿易戦争の先行き不透明が強まっていたところに、補正予算の見送り報道が加わり、安全資産を志向する動きになった。

新発30年と40年国債利回りは前日から10ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)超低下した。関税を巡る米中のやり取りはエヌビディアやボーイングといった民間企業も巻き込んで沈静化の兆しがなく、経済・物価の先行きが見えにくくなっている。ここに今国会に2025年度補正予算案が提出されないと伝わり、増発懸念後退から国債が買われた。リスク回避から円が上げて、株式は売られた。

中国以外でも、欧州連合(EU)と米国の貿易交渉でほとんど進展はなかった。日本は赤沢亮正経済再生担当相が訪米して日米交渉に臨む。安全資産需要の強まりを象徴するように金価格が再び最高値を更新している。日米ともに債券相場のボラティリティーが高く、日本企業の資金調達に遅れが出始めている。

三井住友トラスト・アセットマネジメントの稲留克俊シニアストラテジストは、補正予算案を自民党が今国会で提出しない方針との報道があり、「買い安心材料だ」と述べていた。米関税政策で日本経済への懸念を示した植田和男日本銀行総裁の記事も、「ハト派的な印象で債券買い方向の材料として意識されそうだ」としていた。

債券

債券相場は大幅上昇。米長期金利が連日で低下した流れを引き継ぎ、買いが先行した。今国会での補正予算案見送りとの日本経済新聞の報道や日銀の植田総裁の産経新聞インタビュー記事も買いにつながった。

岡三証券の長谷川直也チーフ債券ストラテジストは、日銀総裁や補正予算見送りの記事をきっかけにこれまでの急激なスティープ(傾斜)化の反動が出ていると指摘。「日米交渉次第で日銀利上げ観測が再び高まる可能性があるほか、日銀買い入れオペで超長期債の売りが増えており、一方向的に低下はしにくい」とも述べた。

日銀は16日午前の金融調節で、定例の国債買い入れオペを実施した。対象は残存期間1年超3年以下、3年超5年以下、5年超10年以下、25年超で買い入れ額はいずれも前回オペと同額だった。オペ結果によると、応札倍率は残存期間1年超3年以下を除く3ゾーンが上昇し、市場での売り圧力の強まりを示した。

超長期債は債務負担の増大に対する懸念と世界的な債券市場の混乱による売り圧力という二重苦に見舞われていた。物価高やトランプ米政権の関税措置への対応策として現金給付や消費税引き下げを要求する声が与野党から上がる中、財政拡張への警戒感から30年債利回りは14日に2.845%、20年債利回りは2.44%といずれも04年以来の高水準を付けていた。

新発国債利回り(午後3時時点)

株式

東京株式相場は下落、日経平均の下げ幅は午後に一時600円を超えた。米エヌビディアに対する対中規制強化による業績への影響が懸念され、人工知能(AI)関連株が下落して全体の足を引っ張った。金利低下を受けて銀行株の下げも目立った。

エヌビディアに製品を提供しているアドバンテストが一時7.8%安、ディスコやルネサスエレクトロニクス、ソシオネクスト、SUMCOも日経平均の値下がり率上位に入った。

オランダの半導体製造装置メーカー、ASMLホールディングが発表した1-3月(第1四半期)の受注が市場予想を下回ったことを受けて、こうした銘柄は午後に下げを拡大する場面があった。

アシンメトリック・アドバイザーズの日本株式ストラテジスト、アミール・アンバーザデ氏は、エヌビディアはAI分野の先行指標だとして、半導体「H20」製品に米政府が対中輸出許可が必要になるというニュースの悪影響が「まだ市場に十分に理解されていないだろう」と述べた。「半導体製造装置の輸出規制はさらに厳しくなることが予想できる」としている。

みずほ証券エクイティ調査部の三浦豊シニアテクニカルアナリストは、開始予定の日本と米国の関税交渉への懸念も全体的なセンチメントに重くのしかかっていると指摘。「為替が議題に上がるだろうという思惑がある。為替が円高気味で動いており、それが日本株にとって上値を抑えるところになっている」と述べた。

一方でエーザイは米バイオジェンと共同開発したアルツハイマー型認知症治療薬について、EUでの販売承認を欧州委員会から取得したことを受けて一時4.9%上昇、日経平均とTOPIXの値上がり率上位に入った。

為替

東京外国為替市場の円相場は1ドル=142円台前半に上昇。週内に行われる日米通商協議に対する警戒感が強く、ドル売り・円買いが優勢だ。

ふくおかフィナンシャルグループの佐々木融チーフ・ストラテジストは、関税政策を巡る米トランプ政権への不信感がドル売りにつながっているとの見方を示した。日米通商交渉を経て米国への投資が増える結果、ドルは最終的に対円で上昇するとみていたが「ドル安が大きな流れになる可能性が出てきた」と述べた。

SBIリクイディティ・マーケットの上田真理人金融市場調査部長は、関税を巡る米欧交渉がうまくいっておらず、ドルもユーロも買えない状態として、資金が円に向かっていると指摘。日米通商協議を前にした警戒感もあり、クロス円も含めて円高に振れる可能性があると話した。

この記事は一部にブルームバーグ・オートメーションを利用しています。

--取材協力:山中英典、長谷川敏郎、日高正裕、アリス・フレンチ.

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