世界的な貿易戦争の激化が米経済の成長を阻害するリスクが高まり、今週の市場は混乱に陥った。こうした中、新たな「犠牲者」として浮上しているのがドルだ。

11日の取引ではブルームバーグ・ドル・スポット指数が6カ月ぶりの安値を付けた。米中間の貿易摩擦激化を受け、米国の資産から資金が大幅に流出しているためだ。日本円やスイス・フラン、金などの安全資産に資金が流れ込んでいる。

オーバーシー・チャイニーズ銀行(シンガポール)の為替ストラテジスト、クリストファー・ウォン氏は「ドルの信認が脅かされている」と指摘する。米国例外主義の後退や米債務の増大などの要因により、ドルが基軸通貨としての地位を維持できるかが疑問視されているという。

10日には米利下げ観測の高まりからドルが2年強ぶりの大幅な下げを記録したほか、S&P500種株価指数は3.5%安となり、米長期国債は値下がり。オーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)取引では、米金融当局が年内に90ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)の利下げを実施するとの見方が織り込まれている。

安全資産買い

質への逃避の中で買いが強まっているのは安全資産だ。11日の円上昇率は1%を上回り、1ドル=142円89銭と昨年9月以来の高値となった。

スイス・フランも対ドルで一時0.8141フランと2015年以来の高値を記録。金は最高値を更新した。

幅広い通貨に対するドル安を背景にユーロも上昇。22年2月以来の高値となる1.1383ドルを付けた。

ホワイトハウスが対中関税を145%に引き上げると発表したことを受け、市場では中国側の対応が注目されている。中国以外の数十カ国・地域に対する上乗せ関税は90日間停止されたが、その後に関しては依然として不透明だ。

ナショナルオーストラリア銀行(NAB)のストラテジスト、ロドリゴ・カトリル氏は、ドル安に歯止めをかける材料は乏しく、貿易摩擦について何かしらの解決策が近く出てくるとの見方が広がらない限り、ドルの下げは続くと予想。

「貿易摩擦の激化が続く限り、米国資産からの撤退とドル売りという構図は変わらない」と語った。

原題:Dollar Emerges as Latest Victim of This Week’s Markets Mayhem(抜粋)

--取材協力:Ruth Carson.

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