ウォール街で超安全な「リスクフリー」資産と評される米国債は、長年にわたり投資家がパニックに陥った際の第一の選択肢となってきた。世界金融危機、9.11同時多発テロ、そして米国の信用格付けが引き下げられた際にすら、米国債は買われた。

しかし、トランプ米大統領が世界貿易に全面攻撃を仕掛ける中、安全な逃避先としての米国債の地位が疑問視されるようになっている。

特に長期債の利回りがここ数日で急上昇し、同時にドルは急落している。さらに不安をあおるのは、最近の市場の動きのパターンだ。投資家は、10年債や30年債を投げ売りするのと並行して、株式や暗号資産(仮想通貨)などのリスク資産を売り急いでいる。買い戻しが入る時も同様で、米国債はリスク資産と共に上昇する。

10日にはトランプ氏の関税政策や中国との貿易摩擦激化に対する懸念から米国株は急落し、9日に記録した歴史的な上げの半分を失った。

米国株は急落

つまり、米国債はリスク資産のような動きをしている。サマーズ元米財務長官に言わせれば、米国債は新興国の債務のように取引されている。

やがては株価の動きが正常なものに戻り米国債との連動が弱まるとしても、政権へのメッセージは既に発せられている。米国債に対する投資家の信頼は、もはや当然視できるものではない。長年にわたる借金の乱費で負債が膨れ上がり、国内外のルールを書き換え、その過程で最大の債権者の多くに敵対することに固執する大統領がホワイトハウスにいる限り、信頼は当然のものではない。

信頼失墜は世界金融システムに重大な影響を及ぼし得る。世界の「リスクフリー」資産として、米国債は株式から国債、住宅ローン金利に至るまであらゆるものの価格を決定するベンチマークとして使用されている。1日に何兆ドルもの融資の担保としても利用されている。

広く購読されている金融ニュースレター「グランツ・インタレスト・レート・オブザーバー」を創刊したジム・グラント氏によれば、米国債とドルの強さは、「世界が米国の財政および金融管理の能力と、米国の政治および金融機関の堅実性を認識していること」から来ている。「恐らく、世界は考え直しているのだろう」と同氏は述べた。

10日には、株式、債券、ドルがそろって急落し、外国人投資家が米資産から一斉に撤退しているのではないかという懸念が強まった。30年物米国債利回りは13ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)上昇して4.87%となり、ドルは対ユーロ、対スイス・フランで10年ぶりの大幅な下落となった。

INGの金利ストラテジスト、パドレイク・ガービー氏は「米国債は安全な逃避先として機能していない」と言う。「もし景気後退に陥るようなことがあれば、利回りは低下に転じるだろう。しかし、現状では米国債は不良品のように見られており、これは好ましい状況ではない。米国債はペイントレードであることも証明されている」と述べた。

ブルームバーグへの寄稿者でもあるサマーズ氏は今週ソーシャルメディアへの投稿で「株式相場が大幅に下落している傍らで長期金利が上昇している」とし、「米国は世界の金融市場から、問題のある新興市場のように扱われている」と指摘。「政府債務や財政赤字、海外の購入者への依存を考えると、これはあらゆる悪循環を引き起こす可能性がある」と付け加えた。

もし外国人投資家が米資産からの撤退を続けることにした場合、その影響は甚大なものとなる恐れがある。アポロ・グローバル・マネジメントのチーフエコノミスト、トルステン・スロック氏によると、外国人投資家は米国債を約7兆ドル(約1005兆円)、米株を19兆ドル、米社債を5兆ドル保有しており、全体の20-30%を占めている。

最近の歴史が指針となるならば、買い手のストライキは米国の借り入れコストに長期的な影響を及ぼし得る。

3年前、英国のトラス首相(当時)が打ち出した減税策への投資家の反発が英国債利回りを急上昇させ、その影響はいまだに消えていない。ポンドは2016年の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)の国民投票以来、回復していない。

フィデリティ・インターナショナルのポートフォリオ・マネジャー、シャミル・ゴヒル氏は「市場には関税を巡る一転二転によって生じた不信感があり、これは間違いなく不確実性プレミアムを高める」と指摘。「巨額の財政赤字は債務の持続可能性に対する懸念が続くことを意味し、投資家に米国債を保有してもらうためのリスクプレミアムが必要になるだろう」と語った。

原題:Treasuries Suddenly Trade Like Risky Assets in Warning to Trump(抜粋)

--取材協力:Alice Atkins、Anya Andrianova、James Hirai.

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