株式や債券、商品などあらゆる市場からトランプ米大統領に明確なメッセージが同時に発せられている。大統領が仕掛けた貿易戦争は世界的なリセッション(景気後退)を引き起こす恐れがあり、しかもそれは急速に現実になりつつあるといったものだ。

トランプ氏による2日の関税発表から48時間もたたずに中国は報復措置を発表。トランプ氏が引き下がる様子を見せないことから、トレーダーは悪循環を織り込み始めている。

トランプ氏の決定で引き起こされた2日間の激しい売りでアジアや欧州、新興国の株式も大きく下落。投資家は国債など安全資産への逃避を急いだ。

影響は特に米国市場で顕著で、パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長が4日、「関税引き上げは想定よりもかなり大幅になることが明らかになりつつある」と発言し、インフレが加速する可能性もあると言及したことで懸念はさらに強まった。成長鈍化とインフレ加速の同時進行は、利下げによる米金融当局の対応を難しくする恐れがある。

S&P500種株価指数は4日に6%下落。この2日の下げは新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が米国を直撃した2020年3月以来の大きさで、約5兆ドル(約730兆円)の時価総額が消失した。ハイテク株比率の高いナスダック100指数も大きく下げ、2月中旬のピークからの下落率が20%を超えた。

影響は株式市場にとどまらない。原油価格は需要が減退するとの観測で急落。投資適格債のデフォルトリスクをヘッジするコストは、23年の米地銀危機以来の大幅上昇となった。その一方で国債には買いが集中した。

アカデミー・セキュリティーズのマクロ戦略責任者、ピーター・チア氏は「われわれは急速にリセッションに向かっている」と分析。「世界は『相互関税』をある程度想定していた。ローズガーデンで発表されたものは大惨事だ。主に米国にとってだが、世界経済に対してもだ」と述べた。

 

関税計画はトランプ氏が示唆していたほど過激なものにはならないとの観測で、米株式市場は週初、堅調なスタートを切っていた。

しかしそうした期待は2日に打ち砕かれた。トランプ氏は米国への全輸出国に基本税率10%を、中国や欧州連合(EU)など対米貿易黒字の大きい約60カ国・地域を対象に上乗せ税率をそれぞれ適用すると発表。国際貿易の拡大は数十年にわたり世界経済を支えてきたが、大きな後退することになる。

米国が世界中のほぼ全ての国と対立することを意味し、膨張し続ける米国債の供給を海外投資家に吸収してもらう必要がある同国にとって重大なリスクとなる。

ウォール街のストラテジストやエコノミストは、これまで驚くほど堅調だった米経済に衝撃を与える可能性があると指摘し、経済成長率などの予測を下方修正。4日発表の米雇用統計では雇用者数が予想を上回る伸びとなったが、こうした好材料も無視された。

かつてはトランプ氏の保護主義政策の恩恵を受けると期待されていた小型株さえも、景気後退懸念が高まる中で売られた。恐怖指数として知られるシカゴ・オプション取引所(CBOE)のボラティリティー指数(VIX)は急騰し、20年以来の高水準で終了した。

「VIXが示すように市場に恐怖があるときには全てが売られる」とフリーダム・キャピタル・マーケッツのジェイ・ウッズ氏は指摘。「空が落ちてきそうな感覚だ」とし、米政権の「気まぐれに振り回されているため今回は非常に異なるシナリオだ」と述べた。

 

トランプ氏は株価急落を重大視しない姿勢を示している。4日には自身のソーシャルメディアプラットフォーム「トゥルース・ソーシャル」への投稿で、米国に巨額の投資を行う外国人投資家に対し「私の政策は決して変わらない」との考えを示し、今はかつてないほど富を築く絶好の機会だと述べた。

その後の投稿ではパウエルFRB議長に非難の矛先を向け、「金利を引き下げるには今が絶好のタイミングだ。議長はいつも『遅れて』いるが、今ならそのイメージを覆し、素早く行動できる」と主張した。

トランプ氏は4日、ベトナムの最高指導者共産党書記長との電話会談に言及し、同氏から「米国と合意できるのであれば、ベトナムは関税をゼロまで引き下げたいと言われた」と投稿。これを受け、ベトナムに主要生産拠点があるナイキとルルレモン・アスレティカの株価は急伸した。

原題:Worst Stock Meltdown Since Covid Deepens as Recession Odds Soar(抜粋)

--取材協力:Alice Gledhill、Phil Kuntz、Elena Popina、Alex Longley、Jeran Wittenstein、Ryan Vlastelica、Ye Xie.

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