トランプ米大統領は26日午後(日本時間27日午前)、米国産以外の全ての自動車に25%の輸入関税の賦課を命じる布告に署名した。4月2日に発動する。米国への製造業回帰を目指すトランプ氏は貿易戦争を拡大することになる。同日にはさらなる関税の発表も予定している。

トランプ氏はホワイトハウスの大統領執務室で記者団に対し、「米国外で生産される全ての自動車に25%の関税を課す」とした上で、「米国で事業を行い、この国の雇用や富、多くのものを長年にわたり奪っている国々に課税する」と話した。

トランプ氏は4月2日の関税発動を発表するとともに、その翌日から関税の徴収を開始すると述べた。布告では米東部時間同月3日午前0時1分(日本時間同日午後1時1分)以降と明記している。

ホワイトハウスによると、完成車だけでなく、エンジンやトランスミッション、パワートレイン部品、電子部品などの主要な自動車部品にも関税が適用される。このリストは時間の経過とともに拡大され、さらなる部品が含まれる可能性がある。

トランプ氏は自動車関税について「恒久的」なものだと説明するとともに、例外措置について交渉することに興味はないと発言した。同氏の関税発表を受けて、ゼネラル・モーターズ(GM)やフォード・モーター、ステランティスの株価は通常取引終了後の時間外取引で下落した。27日のアジア市場では、トヨタ自動車をはじめとする自動車メーカーの株価が下げた。

一方、ホワイトハウスが発表したファクトシートでは、「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」でカバーされる自動車の輸入業者の場合、米国産部品について証明する機会が与えられ、米国産以外の部品の価値にのみ25%の関税が適用されるシステムが導入される予定だとしている。

ホワイトハウス高官の1人は関税に関し、国境を何度も通過する部品に対処する計画を策定すると述べた。

トランプ米大統領

ホワイトハウスのスタッフセクレタリー、ウィル・シャーフ氏によれば、自動車関税は既に実施されている関税に上乗せされる。トランプ政権は、関税賦課で米国に年間1000億ドル(約15兆550億円)の新たな歳入がもたらされると予測している。

いわゆる「相互関税」の発表を来週予定しているトランプ氏は「それは米国にとって真の解放記念日で、4月2日になる。私はそれを楽しみにしている」とも話した。

自動車関税はトランプ氏による貿易戦争を大幅に拡大するもので、日本やドイツ、韓国をはじめとする主要自動車メーカーが標的になる公算が大きい。米国、メキシコ、カナダにまたがる統合型サプライチェーンに依存する北米の自動車メーカーにも混乱が生じる恐れがある。

しかしトランプ氏は、関税によって米国内の自動車セクターの成長を促し、各社が生産を米国にさらに移転することにつながると論じた。 昨年の米国の乗用車・ライトトラック輸入額は2400億ドル強相当に上った。

インフレ加速や景気悪化も

トランプ氏の新たな措置は、既にインフレに不安を感じている米消費者にとって自動車価格引き上げをもたらし、関税が景気悪化を招くとの懸念を増幅させることになりそうだ。関税は外国製自動車の価格を引き上げる公算が大きいが、供給や部品が課税の打撃を受けたり、サプライチェーンが低コスト国での製造から切り離されたりすれば、米国製自動車価格も上昇することになる。

複数のアナリストは、新たな関税によって新車価格が1台当たり数千ドル上昇する可能性があると推計。最近の調査によれば、カナダ、メキシコ、中国への関税賦課はクロスオーバー車の製造コストを約4000ドル引き上げ、米国製電気自動車(EV)の場合は約1万2000ドル跳ね上がる可能性があるという。

 
フォンデアライエン欧州委員長

トヨタ自動車やドイツのBMWなど、米国外自動車ブランドのロビー団体「オートス・ドライブ・アメリカ」のプレジデント、ジェニファー・サファビアン氏は今回の関税を巡り、「米国内での自動車生産・販売コストを押し上げ、最終的には価格上昇や消費者の選択肢の減少、米国内の製造業の雇用減少につながるだろう」と発表文で指摘した。

また、欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長はトランプ氏の決定に遺憾の意を表明。「われわれは今後、米国が数日中に予定している他の措置とともに、この発表を精査する」とし、「EUとして自らの経済的利益を守りつつ、交渉による解決策を模索し続ける」とする声明を発表した。

カナダのカーニー首相は、米関税は自動車産業で働く人々を「直撃」し、USMCA違反だと言明。まず閣僚メンバーと議論するとして、新たな報復措置には言及しなかった。

他方で、全米自動車労働組合(UAW)のショーン・フェイン委員長は「トランプ政権はきょうの措置で歴史をつくった」と歓迎の意向を表明した。

最も強力な対抗措置

その後、トランプ氏は別途、「EUがカナダと協力して米国に経済的損害を与えようとするのであれば」、両者に対し「現在計画しているよりもはるかに大幅」な関税を課すと、自身のソーシャルメディアプラットフォーム「トゥルース・ソーシャル」に投稿した。

カーニー氏は先週、首相就任後初の外遊先としてフランスと英国を訪問していた。米東部時間27日未明のトランプ氏の投稿を受けて、外国為替市場ではユーロが一時、小幅な上げ幅を削り、カナダ・ドルは下落した。

EUは対抗措置を準備している。フランスは欧州委員会に対し、域内の通商政策として最も強力な措置で、これまで発動されたことのない強制排除手段の活用を検討するよう要請したと、ブルームバーグは先に報じた。

匿名を条件に語ったEU高官によると、EUは対抗措置を準備する上で、同じ意向を持つ一部の国々と情報を共有している。ただ、EUが報復措置をまとめ上げているという示唆はない。

ドイツのハーベック経済相は27日、「EUが関税に断固とした対応を取ることが今こそ重要だ。米国に対してEUは譲歩しないという姿勢を明確にしなければならない」と電子メールで主張。「強さと自信が求められている」と続けた。

英国のリーブス財務相は、関税措置の発表を受け、同国は米政府と緊急協議を行っていると述べた。

27日のブルームバーグTVとのインタビューでリーブス氏は、「来週の関税引き上げを前に、現在は米国側と集中的な協議を行っている」と語り、「英米間の堅調な貿易の流れを確実に維持したいと考えている」と続けた。

原題:Trump Hits Auto Imports With 25% Tariff Starting Next Week (3)、Trump Floats More EU, Canada Tariffs If They Work Against US (2)、UK in ‘Intensive’ Talks to Fend Off US Tariffs, Reeves Says (1)(抜粋)

(最終2段落を加えます)

--取材協力:Keith Naughton、David Welch.

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