ブレグジット後に悪化したEUとの関係 修復目指す
ブレグジット後の英国は、より多くの国・地域との自由貿易協定の締結を目指してきた。昨年12月には日本も加盟する環太平洋経済連携協定(CPTPP)に正式加入し、インドとも最近、貿易交渉を再開することで合意した。2010年以来、14年振りに誕生した労働党政権は、クリーンエネルギーやライフサイエンスなどの成長産業への重点投資、所得税や付加価値税など基幹税の増税回避、規制緩和やインフラプロジェクトの承認手続きの簡素化、EUとの貿易協力協定(TCA)の見直しなどを通じて経済・産業の立て直しを急ぐが、政権発足後の金利上昇や国民保険料の雇用主負担の引き上げなどを受け、景気の先行きに対する悲観論が増えている。スターマー首相や労働党の支持率も政権発足後に急落しており、一部の世論調査では、英国独立党(UKIP)やブレグジット党の流れを汲む右派系ポピュリスト政党・英国改革党(リフォームUK)が二大政党を上回る最多の支持を集めている。3月には新たな産業戦略や春季予算の発表も控えており、経済の安定を重視するとしてきた政権の方針が改めて試される。
スターマー首相はこれまで外交の場でも目立った存在感を発揮することが出来ずにいたが、ウクライナ和平を巡っては、フランスのマクロン大統領とともに2日の欧州首脳等の会議の議論をリードし、ウクライナの戦闘終了後の平和維持軍の派兵や、米国が後ろ盾を提供するようにトランプ大統領を説得することに意欲を示している。和平計画の策定にはウクライナが参加するが、米国の説得はスターマー首相とマクロン大統領に、トランプ大統領と個人的な関係が良好なイタリアのメローニ首相を加えた英仏伊の3首脳が担うとみられる。先の英米首脳会議でみせたトランプ大統領との予想外の良好な関係を再現できるか、スターマー首相の真価が問われる。2日の会議には近く退陣予定のドイツのショルツ首相も参加したが、政権交代前の暫定首相という立場であり、リーダーシップを発揮する状況にはない。独仏伊首脳とともに欧州内でのリーダーシップが目立ったオランダのルッテ前首相は、北大西洋条約機構(NATO)の事務総長に転身し、首脳という立場ではなくなった。英国は昨年10月にドイツと初の防衛協定を締結した。スターマー首相は2月初旬にEU首脳等の会合に参加し、欧州の防衛力強化に協力する意向を示した。英首相がこうした会合に出席するのは、ブレグジット後で初とされる。英国はブレグジット後に悪化したEUとの関係修復を目指しており、今後は経済分野での関係改善につながるかも注目が集まる。

(※情報提供、記事執筆:第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド) 田中 理)