チャールズ国王からの招待状

スターマー首相は昨年7月の就任以来、トランプ大統領との緊密な関係を構築しようと努めてきた。トランプ大統領が2月19日にウクライナのゼレンスキー大統領を独裁者と呼んだ際には、さすがにこれを批判したが、今回の首脳会談ではトランプ氏への批判を封印し、同氏を持ち上げた。スターマー氏は冒頭の挨拶で、ウクライナ和平でのトランプ大統領の貢献に謝意を表した。また、スターマー首相は訪米に当たり、トランプ大統領を国賓として英国に招くチャールズ国王からの招待状を持参した。トランプ氏の母親はスコットランド出身で、英国には特別な思い入れがある。トランプ氏は大統領任期一期目の2019年に当時のエリザベス女王から国賓として招かれているが、二度目の国賓としての招待は米大統領として歴史的で、前例がないとされる。従来、二度目の公式訪問は国賓としてではなく、君主との昼食会などに招かれるのが通例となっていた。トランプ大統領は国賓としての招待を光栄なことと述べ、これを快諾した。

加えて、スターマー首相は訪米直前の25日、2027年までに国防費をGDP比の2.5%に、2035年までに3%に増加させる計画を発表した。労働党政権としては異例の対外援助予算を削減し、国防予算の増額に充てる。国防予算の増額は労働党が選挙公約にも掲げていたものだが、訪米直前のタイミングでこれを発表したのは、外交的な意図があったのだろう。トランプ氏が予て主張してきた欧州諸国に対する国防費の増額要求に逸早く対応した形で、トランプ大統領は英国の決断を称賛した。こうした手土産が、トランプ大統領の態度を和らげることにつながったかどうかは定かでない。英国がひとまずトランプ大統領の関税引き上げの標的とならなかったのは、単に米国の対英貿易収支が黒字であることが奏功しただけなのかもしれない。両国は関税のない貿易協定の早期締結に向けて協議を進めるとしているが、前述した食品安全基準に照らした米国からの食肉輸入の禁止など、合意に向けたハードルは少なくない。