3月6日に連合から、2025 年春闘における労働組合の賃上げ要求集計結果が発表された。これによると、25 年の賃上げ要求は平均で 6.09%と非常に高いものとなった。6%台は 1993 年の 7.15%以来、32 年ぶりの高い要求であり、歴史的な賃上げと言われた 24 年春闘での 5.85%を 0.24%Pt 上回る。もちろんこの要求がすべて実現するわけではないが、企業側も賃上げに対して前向きなスタンスを示していることや、集中回答日を待たずして既に高い賃上げ実施を表明する企業が多くみられていることを踏まえると、過去の例を超えてここから大きく下振れる可能性は低いだろう。

ちなみに、24 年春闘では要求の 5.85%に対して回答は 5.1%であり、要求と回答との乖離は 0.75%Pt だった。これを単純に当てはめると 25 年春闘の賃上げ率(連合ベース)は 5.34%となる。また、官製春闘と言われた 2014 年以降の平均である 1.06%Pt の乖離を当てはめても 5.03%となる。こうしたことを踏まえると、最終的な回答結果は昨年に続いて5%を上回る可能性が高い。筆者を含めた民間エコノミストの予想では、25 年春闘では「24 年並み」もしくは「24 年をやや下回る」賃上げ率になるとの見方が多かったが、6日公表の要求集計結果を見る限り、「24 年並み」というよりは「24 年をやや上回る」結果になる可能性が高まったと言えるだろう。

中小企業の要求も強い

今回もう一つ注目されるのが中小企業組合における要求の高さだ。25 年春闘における組合員 300 人未満の中小組合における賃上げ要求は平均 6.57%となった。5.97%だった昨年を 0.6%Pt 上回る。24年春闘では、中小組合の要求である 5.97%に対して回答は 4.45%であり、乖離は 1.52%Pt だった。これを単純に当てはめると賃上げ率は 5.05%となる。微妙なところではあるが、中小企業においても賃上げ率が5%を上回る可能性が出てきたと言って良いだろう。中小企業は大企業に比べて収益面での余裕はないが、人手不足感の強さと人材確保の必要性は中小企業の方が大きい。25 年春闘では中小企業でも高い賃上げが実現する可能性が高いだろう。

「満額回答」続出か 利上げ前倒しも…

次の注目は3月 12 日に設定されている春闘集中回答日だ。ここで多くの企業における労使交渉の回答が行われる。おそらく満額回答が続出との結果になり、賃上げムードの高まりが示されるだろう。月例給与だけでなく賞与の交渉結果についても注目しておきたい。なお、中小企業の交渉は大企業よりも遅いタイミングで実施されることが多いが、交渉に際してこの集中回答日での賃上げ相場を参照することが多いため、中小企業の賃上げという観点からも重要だ。

また、その結果を受けて、3月 14 日には連合から春闘賃上げ率の第1回回答集計結果が公表される。24 年春闘では賃上げ率が事前の予想を大幅に上回るサプライズとなり、日銀のマイナス金利解除にも繋がったことから、今年もこれらの結果には注目が集まる。仮にこの結果が昨年をはっきり上回るようであれば、日本銀行が賃金の先行きについて一段と自信を深めることになる。今後、金融市場がある程度落ち着くようであれば、利上げの前倒し観測が強まる可能性もあるだろう。

(※情報提供、記事執筆:第一生命経済研究所 経済調査部 シニアエグゼクティブエコノミスト 新家 義貴)