21日の日本市場は長期金利が一転低下(債券相場は上昇)した。日本銀行の植田和男総裁が急上昇を抑える姿勢を示し、債券の買い戻しが優勢になった。金利低下で円は売られ、株価は持ち直した。

植田日銀総裁

長期金利の上昇について21日の衆院予算委員会で問われた植田総裁は、急激に上昇する場面では「機動的に国債買い入れの増額等を実施する」と発言した。これを受けて上昇していた新発10年債利回りは低下に転じ、1ドル=150円を一時割り込んで買われていた円も売りが優勢になった。円安と金利低下で日本株も上昇に転じた。

日銀政策委員会メンバーの発言や消費者物価指数の上振れで強まっていた金利上昇圧力を、植田総裁がいったん抑えた。それでも市場の追加利上げ観測は根強い。日銀が追加利上げをした1月下旬以降も氷見野良三副総裁や田村直樹、高田創両審議委員は利上げ継続を示唆するコメントをしており、3月5日には内田真一副総裁の講演が予定されている。

アクサ・インベストメント・マネージャーズの木村龍太郎債券ストラテジストは植田総裁の発言について、金利上昇スピードを抑える内容だったと分析。金融緩和的な水準が解消されれば国債買い入れ増額ということだろうが、今の金利上昇を急激と捉えているわけではなく、買いが継続する材料にはならないのではないかと述べた。

債券

債券相場は上昇。日銀の植田総裁の発言を受けて買いが優勢となり、長期金利は15年超ぶり高水準を更新した後に低下に転じた。

東海東京証券の佐野一彦チーフストラテジストは「債券市場では売りポジションが相当積み上がっていたので、植田総裁の発言をきっかけに買い戻しが入った」と語る。植田総裁は現在の長期金利上昇が急激だとは言っておらず、価格形成は市場に任せるとしているため、「相場の反発は一時的で弱い基調が当面続く」とみていた。

この日は日銀の利上げに対する警戒感や朝方発表された1月の全国消費者物価指数(CPI)で生鮮食品を除くコア指数が予想を上回ったことを受け、長期金利(新発10年債利回り)が一時1.455%と09年11月以来の高水準を更新していた。

新発国債利回り(午後3時時点)

為替

東京外国為替市場の円相場は1ドル=150円台前半に反落。朝方は1月の消費者物価指数を受けて日銀の利上げ観測が強まり、一時149円台前半と約2カ月半ぶりの高値を付けたが、その後は円売りが優勢になった。

大和証券の石月幸雄シニア為替ストラテジストは、植田総裁が国債買い入れ増額に言及し、債券先物が急激に買われたことに引っ張られ、円も売られていると指摘。前日の総裁発言で長期金利の上昇を気にしていないのではないかといった市場の観測を打ち消した格好だと話した。

石月氏は、CPIが警戒されたほど上振れなかったことに加え、実需のドル買いが入っていた可能性もあり、円高は149円台前半でいったん止まったと述べた。

SBIリクイディティ・マーケットの上田真理人金融市場調査部長は、植田総裁の発言は長期金利上昇を気にしていないのではないかといった市場の懸念に配慮したことと、どんどん円高が進むと株価が下がることも気にしているのではないかと指摘。もっとも、日銀の利上げ方向は変わらないとして「引き続き円高方向を警戒したほうがいい」と述べた。

株式

東京株式相場は3営業日ぶりに反発。植田日銀総裁の発言後の国内金利低下や円相場の下落などを手がかりとした買いが入った。もっとも、買い一巡後は利益確定や戻り待ちの売りが出て下げる場面もあった。

ニッセイ基礎研究所の森下千鶴研究員は「このところ日銀審議委員の発言がタカ派に寄っていたので、植田総裁はいわば緩衝材を入れて、市場を安心させようとしたのだろう」と語った。ただ、「総裁の発言をもって市場の利上げ観測が大きく変わるとは思われない」とも指摘した。

日産自動車の株価が急騰して9.5%高で取引を終えた。菅義偉元首相や元テスラ社外取締役の水野弘道氏らのグループが、日産支援を米電気自動車(EV)メーカーであるテスラに呼び掛けることを計画していると、英紙フィナンシャル・タイムズが21日報じた。

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--取材協力:日高正裕、船曳三郎、我妻綾.

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