イングランド銀行(英中央銀行)が各国政府や商業銀行などの金融機関のために保管している金の延べ棒が、米国の先物市場へと大量に輸送されている。

トランプ米大統領が貴金属の輸入に課税するのではないかという臆測から生まれた、希少な裁定取引の機会を捉えたトレーダーらに金塊を納品するため、中銀で金塊を管理するチームが作業に追われている。

先物取引はマウスのクリック一つで開始できるが、金塊を物理的に大量に移動させる必要があるため、ロンドンで深刻な物流のボトルネックが生じている。

銀行の保管担当者はここ数年で最も忙しく、物流会社は残業続きとなり、精錬所は米国の先物市場に納入できる形態に金塊を鋳造する注文で数カ月先まで予約が埋まっている。

 

何世紀にもわたって証明されてきた保管庫の安全性、そしてロンドン金市場の他の商業用保管庫と比較してコストが安いことから、保有者が金塊をイングランド銀から移動させることはほとんどなかった。しかし現在、金地金はここ10年余りで最も速いペースで移動している。

米大統領選の投票日以来、約600億ドル(約9兆円)相当、2000万トロイオンス以上の金地金が、ロンドン金市場からニューヨーク商品取引所(COMEX)の保管場所に移った。この現物の移送は市場で話題になった。

金価格は1トロイオンス=3000ドルに迫り、最高値を連日更新している。

米国の金価格は他国よりも急速に上昇した。このため、ロンドンで現物の金を購入し、米国でそれに対応する先物契約を売ることで、トレーダーは1オンスにつき約50ドルの健全な利益を確保できた。

ニューヨークプレミアムはその後、1オンス10ドル程度と、より通常の水準にまで縮小したが、米市場で先物を売ったトレーダーのコミットメントを満たすためには、まだ多くの金が輸送される必要がある。

この取引で最大限の利益を上げるため、JPモルガン・チェースやHSBCホールディングスなど金を扱う国際的な銀行のディーラーは、大きな部分をイングランド銀の職員に頼っている。

仕事をしているのは、イングランド銀のスタッフ約15人から成るチームだ。事情に詳しい関係者によると、顧客が引き出しを依頼するたびに、地下2階に広がる保管庫から、1本12.5キロの延べ棒を「掘り出す」という肉体的にきつい作業を行っているという。

しかも、このプロセスに直接関わっている人々や中銀の公表情報によると、イングランド銀にある金塊の所有者は、特定の金塊に対する所有権を持っているため、取り出すのはどの金塊でもよいわけではなく、依頼者に帰属する金塊を見つけ出さなければならないという。

イングランド銀は公的機関であるため、こうした一時的な需要に対応するための常設の大型チームを維持するコストを正当化することはできず、また、セキュリティー上の理由から臨時職員の雇用も困難だ。

 

職員に残業代を支払い、できるだけ早く移送の求めに応じようとしているが、積み残しが発生している。

イングランド銀は約42万個の延べ棒を保管しており、1月の引き出しは2012年以来の最大だった。スタッフは1営業日平均370本、合計約8145本の金塊を掘り出したが、それでも数週間分の積み残しがあるという。

先物取引はマウスのクリック一つで開始できるが、金塊を物理的に大量に移動させる必要がある

原題:Bank of England’s Gold-Diggers Grapple With Trump-Fueled Frenzy (1)(抜粋)

--取材協力:Jack Farchy.

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