立ちはだかるのは労働コスト上昇と、トランプ政権の“関税攻勢”?

昨年、現地取材を行ったTBS経済部の岩井宏暁記者はベトナムの現状について「街で人々に話を聞くと、とにかく景気のいい話ばかり」と述べます。中間層や富裕層も増えており、国全体に右肩上がりの雰囲気があるということです。

ベトナムなど発展途上国の経済成長の特徴として、「リープフロッグ」現象が挙げられます。これは一部の技術や産業が、先進国で経た段階を飛び越えて急速に発展することを指します。

ベトナムでのデジタル技術の急速な普及の例として岩井記者は配車アプリの“Grab(グラブ)”を挙げます。「使い方は非常に簡単で、行きたい場所を入力して、迎車を検索するだけ。支払いもキャッシュレスで終わります。ドライバーと話すことなく現地まで行けてしまう」

グラブの導入にあたっては政府による配車アプリの規制が後手に回るなど、共産党による締め付けが必ずしも強くないことや、サービスの成長が結果的に優先されるダイナミズムがあることもベトナムの特徴といえそうです。

急速な発展に伴う課題も浮上しています。「労働力の質が比較的良く、コストも安かったことで成長を続けてきました。ただ賃金も上昇しており、それに見合った付加価値をつけて産業構造を高度化できるか」が問われていると藤田さんは指摘します。

地政学的リスクもあります。中国からの生産拠点移転が進んだこともあり、ベトナムの輸出先の筆頭国は現在、アメリカです。電子製品のほか、特に衣類の対米輸出は中国とほぼ同じレベルに達しています。

その裏返しでアメリカの国別の貿易赤字額でベトナムは中国、メキシコに次ぐ第3位です。「トランプ政権の保護主義的な関税政策のターゲットになる懸念も生じています」と藤田さん。

日本はベトナムが戦略的パートナーシップを結んでいる数少ない国で、日本企業にとって引き続き大きなチャンスのある国といえます。岩井記者が「もしかしたら今後、日本を抜いていくのでは」と指摘するほどのポテンシャルのあるベトナム。今後も要注目です。