米製薬大手ブリストル・マイヤーズスクイブが昨年公表した年次報告書は、同社の多様性・公平性・包摂性(DEI)への取り組みの紹介に半ページを割き、社内の黒人やラテン系、LGBTら性的少数者グループのリストまで掲載していた。しかし今年の報告書では「多様性」という文言はリスク要因の項目にしか見られない。

12日に公表されたブリストルの2024年度報告書では、臨床試験の多様化とマイノリティーが所有する企業への投資という目標を説明する段落が削除された。また、「包摂性と多様性、健康の公平性を向上させる長期コミットメント」への言及もなくなった。

このところ、大企業を標的にDEIの取り組みの縮小や停止を求める訴訟を起こしたり、圧力を加えたりするケースが増えている。

トランプ米大統領は先月、連邦政府によるDEI義務化と政策を終了させる大統領令に署名。メタ・プラットフォームズやアマゾン・ドット・コム、マクドナルドはDEI方針を後退させ、ゴールドマン・サックス・グループは白人男性だけで取締役会を構成する企業とは新規株式公開(IPO)のビジネスはしないという方針を白紙に戻した。

こうした動きはDEI目標を掲げてきた製薬業界にも波及しつつある。トランプ政権1期目に資金提供を受けた新型コロナウイルスワクチン開発企業は、臨床試験の参加者の構成を民族的に多様化すると約束していた。

ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)は「米国の有色人種コミュニティーの健康を脅かす、システミックな差別に根差した不公平の是正」に1億ドル(約153億円)を拠出すると表明。ファイザーも臨床試験における多様性を改善すると発表していた。

ブリストルの広報担当者は年次報告書の変更に関する質問に対し、同社は定期的に更新しており、「最近発表された政策の評価を進めている」と述べるにとどまった。多様性の目標を後退させたかどうかや、社の方針を変更したかどうかについては明言しなかった。

他の製薬会社

他の製薬会社も当局に提出した年次報告署でDEIに関する言及を減らしている。J&Jは13日に発表した年次報告書で「DEI」を「包摂性と帰属」に置き換えた。また、「DEIをわれわれの日々の仕事に取り入れる」との理念が書かれていた従業員研修に関する段落を削除した。

同社は発表資料で、「当社は、適用される全ての法的要件をこれまでも、そしてこれからも順守し、当社が信じる価値観に注力し続ける」とした。

バイオジェンが12日に提出した年次報告書では「DEI」の文言が削除され、代わりに同社は「包摂性の企業文化」を有しており、「能力主義に基づく機会」にコミットしているとの文言が盛り込まれた。「多様性」という単語は使われなかった。

同社の広報担当者は発表資料で、「包摂的な職場環境こそがイノベーションを育み、患者へのより良いサポートにつながるというバイオジェンの強い信念を表すには、包摂性の企業文化という表現の方が適切だとわれわれは考えている」と説明した。

アルナイラム・ファーマシューティカルズは昨年の年次報告書で、「DEIへの取り組み」を従業員全体に拡大することに重点を置くとしたが、今年はDEIの文言やマイノリティー集団への支援に関する部分は削除され、「才能ある多様な人材」を重視すると述べるにとどまった。同社のイボンヌ・グリーンストリート最高経営責任者(CEO)は製薬業界で数少ない有色人種の女性経営者の1人。

アルナイラムの広報担当者にコメントを求めたが、すぐに返答はなかった。

原題:Drugmakers Step Back From Diversity Pledges in Bow to Trump (3)(抜粋)

--取材協力:Gerry Smith、Naomi Kresge、Anne Cronin.

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