金融ニュースは常に数字が並ぶが、何よりも重要な数字がある。世界中の資産価格設定に役立つ重要なベンチマークである10年物米国債利回りだ。

ベッセント米財務長官は先週、10年債利回りは経済に影響を与える重要指標との考えを示した。同利回り低下は、債券投資家がトランプ政権の政策を前向きに受け止めている兆しとみている。現政権の政策が「インフレなき大幅成長」につながると考えるベッセント氏は、今後も利回り低下が続くと見込む。

インタビューで語るベッセント米財務長官

10年債利回りの動きは、米国株や新興国市場証券の価格などさまざまな分野に大きな影響を及ぼす。2023年は小幅にとどまったものの過去4年間の利回りは毎年上昇してきた。22年には米金融当局の積極的な利上げ開始を受け大きく動いた。引き締め局面は23年半ばに終わり、24年に利下げサイクルが始まった。

投資家はなぜ国債利回りに関心を持つのか?

米国債は世界で最も安全な証券とされ、28兆ドル(約4320兆円)超規模の米国債市場は世界金融の基盤を形成する。投資家は米国債の取引価格も気にするが、買い持ち投資家にとって年率のトータルリターンを示すとも言える利回りの方が重要だ。政府がさまざまな期間での借り入れで支払いを求められる金利水準を示すほか、企業や住宅ローンを抱える住宅所有者など借り手にとってもベンチマークになる。

10年債利回りがなぜこれほど重要なのか?

米国債は数カ月から30年までさまざまな年限で発行され、投資家はイールドカーブ上の金利に敏感に反応する。だがその期間によって金利と金利差は全く異なる状況を示唆し得る。

例えば、短期金利は米金融当局の政策決定に大きく左右されるが、長期金利はより自由度が高く、経済成長やインフレ、米財政赤字の軌道と国債発行ニーズに関する投資家見通しのバロメーターになる。30年債のような超長期債では不確実性が高いため、10年債に注目が集まる。結果的に10年債は、リスクのない借り入れのコストに関する世界有数の指標だ。

節目となる利回り水準はあるか?

答えはイエスでもノーでもある。今年初めに4.8%の高水準にあった10年債利回りは低下して2月半ば時点で4.6%前後だ。新型コロナウイルス流行で市場が混乱していた20年3月には0.31%まで低下したが、23年10月に5%強を付けた。利回りが23年のピークを上回ることはないとの見方が市場の大勢だが、その可能性もあると警戒する声もある。

大きな要因の一つは、トランプ大統領が賦課を警告する関税が、どれだけ実行に移され、それがインフレを引き起こすかどうかだ。もし利回りが上昇すれば、政府の債務返済コストが膨らむだけでなく、借り入れが必要な米消費者や企業は痛手を受ける恐れがある。

米金融当局は10年債利回りを気にしているか?

米金融当局が直接管理できるのは、フェデラルファンド(FF)金利誘導目標の設定を通じて行う短期金利に限られるが、長期金利の動きも注視している。 長期金利は住宅分野に反映されるとともに、金融環境の一般的指標としての役割を果たす。

長期金利の動向は、米金融当局のインフレ対策に影響する可能性がある。金利が低下すれば、金融環境緩和につながり、景気を浮揚させるが、当局が景気を減速させたい場合は、金利低下が逆風となる。

10年利回りは他の資産にどう影響するか?

あらゆるリターンは相対的なものだ。投資家は漫然とではなく、他資産のリスクとリワードを比較して選択肢を検討する。10年債利回りは、株式や企業向け融資などリスクが高めの資産について潜在的なリターンや損失を比較できる手軽な尺度だ。

このため10年債利回り上昇は株式には悪材料となる。投資家がより大きなリスクを負うことで得られる利益が相対的に減る可能性があるからだ。また、企業キャッシュフローの割引価値を押し下げ、株価が下振れする可能性もある。これはハイテク株など、収入の多くがずっと先に見込まれる成長株に特に当てはまる。

これまで10年利回りは常にこれほど重要だったか?

数十年前は、米金融政策の道筋を占う際に米金融当局のマネーサプライの数字など、全く異なる指標が注視されていたが、状況はかなり変わった。近年は、四半期ごとに公表され、FF金利に関する数年先までの当局者見通しを示すドット・プロット(金利予測分布図)などが重視されている。

だが、世界中の投資家が成長とインフレのリスクを見極めようとする中、10年債に対する注目度は一段と高まっている。米財務長官が自身にとって最重要と表明している今は特にそうだ。

原題:Why the 10-Year Treasury Yield Is on Bessent’s Mind: QuickTake(抜粋)

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