(ブルームバーグ):欧州連合(EU)は11日、トランプ米大統領が署名した鉄鋼・アルミニウム輸入に対する25%関税の大統領令を受け、対抗措置を講じる構えを示した。欧米で通商摩擦の恐れが高まっている。
欧州委員会のフォンデアライエン委員長は声明で「米国が欧州の鉄鋼・アルミニウム輸出に対して関税を賦課すると決定したのは誠に遺憾だ」と述べ、「EUに対する不当な関税は見過ごせない。断固として相応の対抗措置を発動する」と続けた。
トランプ氏はEUが米国を「非常に不公平に」扱っていると不満を抱いており、対米貿易黒字を理由に措置を講じることをたびたび示唆してきた。ホワイトハウスが発表した大統領布告によると、新しい税率は米東部時間3月12日午前0時1分に発効する。
ブルームバーグはこれまで、トランプ大統領が関税賦課に踏み切った場合、EUは報復関税の対象となる複数の米国製品のリストを用意し、あらゆるシナリオを想定していると報じてきた。EUは第1次トランプ政権で米国に課した関税を再び適用することで、迅速に動く可能性がある。
EU加盟国の通商担当相らは12日に今後の対応についてビデオ会議を行う。
一方、トランプ氏は11日夜、相互関税に関して12日に動きがあるのかとの記者団の質問に対し、「いずれ分かる」と答えた。

ドイツのショルツ首相は11日の演説で、米国が「他に選択肢を残さないのであれば、EUは一致団結してこれに対応する。4億5000万人の市民を抱える世界最大の市場として、われわれにはその力がある」と述べた。
トランプ政権は1期目の2018年にEUの鉄鋼・アルミ輸出に関税を賦課。これに対してEUはハーレー・ダビッドソンのオートバイなど、政治的にセンシティブな企業を標的に報復関税で応じた。その後21年に双方は鉄鋼・アルミを巡る通商紛争の停止で合意した。
欧州の政府高官の1人は、3月末までとされている関税の凍結はすぐにでも解除可能だと述べた。
フォンデアライエン氏は「EUは自らの経済的利益を守るために行動する」と述べ、「労働者、企業、消費者を保護する」と表明した。
EUは22年に米国に380万トンの鉄鋼および28万9000トンのアルミニウムを輸出した。
保護主義の限界
トランプ氏によれば、関税は国内生産を強化し、米国により多くの雇用をもたらす。同氏は金属製品への関税の税率は「さらに引き上げられる可能性がある」と警告した。
大統領執務室で署名する際には「基本的に、例外なく全てのアルミニウムと全ての鉄鋼に25%の関税を賦課する。それは多くの企業が米国で事業を展開することを意味するだろう」と語った。
だが、今回の鉄鋼・アルミ関税が、数十年にわたる米国の市場シェア縮小と生産低迷を食い止める可能性は低い。米鉄鋼業界では目先、関税導入に伴い投資拡大の機運が高まり、旧型の高炉から効率性の高い電炉への転換が進むかもしれない。だが米国の鉄鋼生産量は昨年7950万トンと、2017年の8160万トンからむしろ減少している。トランプ氏は翌18年に第1次政権で最初に鉄鋼関税を導入した。
一方、フォード・モーターのジム・ファーリー最高経営責任者(CEO)は12日にワシントンを訪問し、連邦議会議員らに対し、トランプ米大統領がカナダとメキシコに課す方針の25%の関税が、米国の自動車産業に「大きな打撃を与える」と警告する方針だ。
適用除外へ折衝
10日に発表された措置には貿易相手国に対する例外は含まれず、米当局者はそうした例外を認めることに慎重な姿勢を示しているが、トランプ大統領はオーストラリアによる米国製航空機輸入を評価し、同国への例外を検討する可能性を示唆した。
今週はインドのモディ首相の訪米が予定されている。インドは米国に鉄鋼を供給しており、ロビー団体のインド鉄鋼協会は米通商制限措置の適用除外を確保すべく、外交的な取り組みを政府に促している。
メキシコのエブラルド経済相は、関税・アルミ関税は「正当化できない」として米政府との協議を開始する予定だと述べた。鉄鋼・アルミに関して、メキシコは米国からの輸入が米国への輸出を上回ると指摘。鉄鋼製品の中には両国の国境を最大で8回越える製品もあり、関税は双方の経済にとって有害だなどと主張している。
商務長官候補のハワード・ラトニック氏と通商代表部(USTR)代表候補のジェミソン・グリア氏の指名が正式に承認されたら、両氏と会談するため米国を訪問するという。
米国は国内需要を満たすためアルミの輸入に大きく依存しており、カナダとアラブ首長国連邦(UAE)、中国がその多くを占める。モルガン・スタンレーによると、アルミの純輸入は23年に80%を超えた。
カナダのシャンパーニュ・イノベーション・科学・産業相は10日の夜の声明で、「米国の最も親密な同盟国であるカナダに対する鉄鋼とアルミニウムの関税は全く正当化できない。カナダの鉄鋼とアルミニウムは国防、造船、エネルギーから自動車まで米国の主要産業を支えている」とコメントした。
原題:EU Pledges Countermeasures Against Trump’s Tariffs on Metals、Trump Sets 25% Steel, Aluminum Tariffs, Widening Trade War (1)、Mexico to Start Talks With US on Trump’s Steel, Aluminum Tariffs、Asked if Doing Reciprocal Tariffs Weds., Trump Says ‘We’ll See’(抜粋)
(6段落目に相互関税を巡る記者団の質問へのトランプ氏の返答を追加して更新します)
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