(ブルームバーグ):トランプ米大統領は10日、鉄鋼・アルミニウムの輸入に25%の関税を賦課する大統領令に署名した。政治的に重要な国内産業を守るため一部の同盟国にも関税を加える取り組みをエスカレートさせた。
関税はカナダ産とメキシコ産を含む米国に輸入される全ての鉄鋼・アルミを対象に幅広く適用され、完成品も含まれる。ロシアや中国などの国々が既存の関税を回避しようとする取り組みを取り締まることが目的だとしている。
トランプ氏は、この取り組みは国内生産を強化し、米国により多くの雇用をもたらすものだと説明。金属製品への関税の税率は「さらに引き上げられる可能性がある」と警告した。
ホワイトハウスが発表した大統領布告によると、新しい税率は米東部時間3月12日午前0時1分に発効する。
トランプ氏は、「基本的に、例外なく全てのアルミニウムと全ての鉄鋼に25%の関税を賦課する。それは多くの企業が米国で事業を展開することを意味するだろう」と大統領執務室で署名する際に語った。

10日に発表された措置には貿易相手国に対する例外は含まれず、米当局者はそうした例外を認めることに慎重な姿勢を示しているが、トランプ大統領はオーストラリアによる米国製航空機輸入を評価し、同国への例外を検討する可能性を示唆した。
10日の米株式市場の時間外取引で米大手鉄鋼・アルミメーカーの株価は小動き。米アルミ最大手アルコアは約1%上昇。米最大の鉄鋼メーカーであるニューコアは0.5%上げた。アジア時間11日の取引で米株価指数先物は0.2%安となっている。
今回の措置は、中国からの輸入品に対する10%の追加関税や現在保留中のカナダとメキシコに対する25%関税に加えられるものだ。大統領はさらに、米国からの輸入品に課税している国々に対し相互関税を課すとあらためて警告。今後2日以内に発表する可能性があると述べた。また、自動車や半導体、その他セクターへの課税も検討することになると語った。
2018年関税を復活・拡大
鉄鋼・アルミ関税は、米国の貿易赤字に対処し、国際貿易を収入源として活用するという大統領によるこれまでで最も広範囲に及ぶ行動だ。
トランプ氏は、国家安全保障を理由に貿易制限を発動する権限を大統領に与える通商拡大法232条に基づき、新たな関税を承認した。第1次政権時の2018年に鉄鋼・アルミ関税を賦課するために使用したのと同じ権限だ。この日の大統領布告により、同大統領は事実上、これら関税を復活・拡大させる。
第1次トランプ政権の下、米製造業の雇用は減税政策の効果で増加した。しかし、18年3月に鉄鋼・アルミ関税が導入され、さらには中国との貿易戦争が始まったことで状況は変化し始めた。第1次政権による最初の鉄鋼・アルミ関税発効後の最初の1年である19年、米国内の製造業雇用は減少。工業生産の落ち込みで製造業は低迷期に入った。
現政権の高官は、鉄鋼・アルミの輸出業者が以前の政策における例外規定を乱用し、米生産業者に打撃を与えたため、新たな措置が必要になったと説明。同高官は10日、記者団との電話会見で匿名を条件に詳細を語った。
完成品対象で米消費者に影響も
完成品を関税対象に加える今回の決定は、物価への幅広い影響を通じて米消費者に打撃をもたらし得る。18年の関税は主に粗鋼生産と一次アルミニウム生産に照準を定めたが、今回の新たな関税は、自動車から窓枠、高層ビルまであらゆるものに必要な付加価値製品に加工される押し出し型材やスラブなども対象となる。最も過激な貿易保護主義者らが長年求めてきたことを実現するものだ。
トランプ大統領はさらに、外国が関税回避を目的に鉄鋼製品を誤分類することを防ぐため、米税関・国境警備局に監視を強化するよう指示すると、当局者は述べた。
トランプ氏は1期目に鉄鋼に25%、アルミに10%の関税を賦課した。この措置は、欧州連合(EU)をはじめとする貿易相手から報復措置を招いた、EUはハーレーダビッドソンのオートバイやリーバイ・ストラウスのジーンズなど米国を象徴する製品に関税を課した。
トランプ氏は最終的にカナダやメキシコ、ブラジルを含む主要輸出国に対し無税措置を認めた。第1次トランプ政権後のバイデン前政権は、これら免除措置を拡大した。
今回の関税措置に対し各国がどのような対応を取るかは不明だが、中国は10日、米国から輸入する大型エンジン搭載車に対する10%の追加関税を発動した。
米国はアルミ輸入に大きく依存
カナダのシャンパーニュ・イノベーション・科学・産業相は10日の夜の声明で、「米国の最も親密な同盟国であるカナダに対する鉄鋼とアルミニウムの関税は全く正当化できない。カナダの鉄鋼とアルミニウムは国防、造船、エネルギーから自動車まで米国の主要産業を支えている」とコメントした。
米国は国内需要を満たすためアルミの輸入に大きく依存しており、カナダとアラブ首長国連邦(UAE)、中国がその多くを占める。モルガン・スタンレーによると、アルミの純輸入は23年に80%を超えた。
外国産鉄鋼が消費量全体に占める割合は小さいが、航空宇宙や自動車製造、エネルギーの各分野は特殊グレードの輸入品に依存している。

トランプ氏は、米鉄鋼業界の再活性化を自身の政策の主要な目標として掲げている。オハイオ州やペンシルベニア州など製造業雇用が減少しているラストベルト地域で強力な政治公約となった。
大統領は7日、訪米した石破茂首相との会談後の記者会見で、日本製鉄によるUSスチール買収計画について、日鉄は「USスチールを所有するのでなく、同社に大規模な投資を行うことで合意した」と発言した。
日本経済新聞は、日鉄幹部が近く訪米しトランプ大統領の側近と面会する意向だと報じた。
原題:Trump Sets 25% Tariffs on Steel, Aluminum (Correct)(抜粋)
(市場の動きを追加します。更新前の記事で関税の発効日を訂正済みです)
--取材協力:Joe Deaux、Akayla Gardner、Malcolm Scott.もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
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