AI技術の進展により、医療や研究で得られる膨大なデータを活用した新たなイノベーションの可能性がヘルスケア分野でも広がっています。ここでは注目しているイノベーションについて、3つの視点でご紹介したいと思います。

医療・介護従事者の負担軽減

最初にご紹介するのは、「医療・介護従事者の負担軽減」で、AIを用いた自動問診・診断支援、患者等の遠隔モニタリングなどがあります。例えば、AIの自動学習機能を用いて電子カルテへの入力時間を削減したり、患者にあった質問を自動で作成したりする機能の提供であったり、AIの活用という視点では、最も実用化が進んでいる領域ともいえるでしょう。また、医療現場では、膨大な大腸内視鏡診断から得られるデータを活用した診断支援サービスが実用化され、保険点数の加算対象にもなっています。これは、大腸内視鏡検査中の画像をAIが解析し、ポリープ・がんなどの病変候補を検出するとリアルタイムに音と画面上の色で警告し、検出位置を枠で表示するサービス等が含まれ、検査時の医師をサポートするシステムです。さらに、患者から得られる生体情報を解析することで、集中治療室にいる患者の状態をリアルタイムで把握したり、睡眠状況等の入居者の一元的なモニタリングによる夜間介護負担の軽減なども行われるようになっています。将来的にはロボット技術との融合により、ロボット手術の精度向上や、人間のような活動ができるヒューマロイドロボットによる高齢者のバイタルデータの記録やモニタリングなど、医師、看護師、介護士の負担軽減が期待されています。

国立社会保障・人口問題研究所の令和5年推計によると、生産年齢人口とも称される15~64歳人口は、1995年の国勢調査で8,726万人でピークに達した後減少局面に入り、2020年国勢調査では7,509万人となっています。出生中位推計の結果によれば、2032年、2043年、2062年にはそれぞれ7,000万人、6,000万人、5,000万人を割り、2070年には4,535万人まで減少するとされています。医師、看護師や介護士の数が将来的に減少していくと想定される中で、現場から得られるデータを活用することで、いかに人がやらなければいけない業務に集中できるようにしていくかという視点は、今後ますます重要になるでしょう。

アナリストとして注目しているのは、バイタルデータの重要性の高まりとビジネスモデルの変化です。血圧などのバイタルデータは、ある一時点での健康状態を把握することに主に使われてきましたが、連続的に取得することで容体変化を把握する、或いは、これらのデータをAIで解析することで、患者の容態変化を予測したり、介護施設等での病気の早期発見や重症化予防に活用する事例がでてきています。また、内視鏡画像診断支援ソフトであったり、ICUでのモニタリングシステムやアラームマネジメント、介護施設での患者見守りシステムなどはアプリケーション・サービスの提供になります。従来の診断機器などの売り切りビジネスから、ソフトウエアの提供などのリカーリングビジネスの機会拡大につながり、収益性の向上や収益構造の安定化が期待されます。こういった変化を見据えてすでに事業構造の変革に取り組んでいる企業もでてきています。