貴金属の現物を裏付けとする金やプラチナの上場投資信託(ETF)で、市場での取引価格が1口当たりの純資産額を上回る異常事態が続いている。個人の旺盛な需要が相場の過熱を招く半面、史上最高値圏の金価格は危険な兆候も見せ始め、これまでの動きが逆回転するリスクには警戒が必要だ。

金のインゴット

三菱UFJ信託銀行が運用する現物国内保管型のETF「純金上場信託」と「純プラチナ上場信託」は、日本の貴金属ETFでは国内保管の金やプラチナの現物を裏付けとする唯一の商品だ。20日には、取引価格が1口当たりの純資産額を示す基準価格をそれぞれ16%、24%上回り、乖離(かいり)率は過去最大を記録した。

世界的な景気の不透明感や地政学リスクを背景とした国際貴金属市況の先高観に加え、田中貴金属が11月下旬まで小型の地金販売を一時停止するなど個人が国内で現物を購入しづらい状況も金ETFへの資金流入を助長した。

一方、20日に最高値を付けた金スポット価格は過熱感から21日の取引で一時6.3%安と2013年以来の日中下落率を記録。純金信託の価格も22日に一時11%安と急落し、今週に入り荒い値動きを見せている。

マーケット・リスク・アドバイザリーの新村直弘共同代表は、9月以降の国内の金関連商品の上昇は「安全資産だからというよりは投機的な買いによるものだ」とし、利益確定売りが出やすいと指摘した。楽天証券経済研究所の吉田哲コモディティアナリストは、金相場が弱含む展開が続けば「個人が一斉に売り、純金信託のプレミアムが剥げ落ちていく可能性がある」と懸念を示す。

ブルームバーグのデータによると、現物資産を裏付けとするなど純金信託と似た特徴を持つ海外のゴールドマン・サックス現物金ETFやアバディーン現物金シェアーズETFなどの乖離率は、過去10年で4%を上回ったことがない。

もっとも、現時点で金相場が大崩れするとみる向きは限定的となっている。楽天証の吉田氏は、株式相場下落へのヘッジ需要や米ドルへの不信感など「金の先高観は残る」と言う。実際、22日の純金信託の価格は安値を付けた後に下げ渋り、国内金先物と大きく変わらない下げ幅に収まっている。

ニッセイ基礎研究所の原田哲志准主任研究員も「まだ現物が手に入りにくいこともあり、価格差が急速に収れんしていく状況にはなっていない」と話す。

純金信託と純プラチナ信託では通常、取引価格が基準価格を上回ると信託委託者の三菱商事が現物を買い付け、新規設定された分のETFを証券会社などが市場で売却することで乖離が縮小していく仕組みとなっている。

ただ、三菱商事RtMジャパンの担当者はブルームバーグの取材に対し、双方とも過去最大ペースのETF設定が続く中、通常の国内に加え海外からも地金を調達しているが、急激な価格上昇と需要増に追いついていないと明かした。

21日時点の純金信託の1口(約0.94グラム)価格は2万1635円で、1グラム換算では2万3092円となる。ETFが連動を目指す理論価格と異なるが、田中貴金属の参考小売価格2万1245円(税抜き)を上回っていた。投資家に17日付で両ETFの注意喚起を行った東京証券取引所ETF推進部の岡崎啓課長は「ETF価格と金価格との連動性が落ち、投資家が割高な価格で投資している状況は問題だ」と述べた。

手数料などを支払えば、投資家が金やプラチナの現物と交換できる点も両ETFが人気を集めている要因の一つ。一方、貴金属の調達から保管までに時間がかかり、ETF設定ペースの足かせになっている可能性がある。東証の岡崎氏は、今後も貴金属の調達などについて発行体や関係者と協議していくと話し、「調達ができている限り、売買停止などの措置を取ることはない」としている。

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