米ニューヨーク市マンハッタンの中心部に乗り入れる車両に「渋滞税」を課す計画がついに始動したが、その長期的な見通しは依然として不透明だ。

世界最悪とされる渋滞の緩和に向けたロンドン、ストックホルム、シンガポールでの同様の取り組みに倣い、ピーク時にマンハッタンの一部地域に乗り入れる車両には9ドル(約1410円)が課される。こうした試みは全米初だ。

今回の渋滞税によってニューヨーク州都市交通局(MTA)に150億ドルがもたらされる見込み。約100年の歴史を持つ地下鉄や通勤電車の改修に充てられるという。

MTAのジャノ・リーバー最高経営責任者(CEO)は3日遅く、「渋滞がわれわれの都市に害を及ぼし、人々の時間とお金が犠牲になっているという現実に何らかの対応を行う。健康という観点からニューヨーク市民の利益を守る」と述べた。

レオ・ゴードン連邦判事は3日、ニュージャージー州の交通パターンなどへの潜在的影響について連邦道路管理局(FHA)が追加情報を提供するまでの間、マンハッタンにおける渋滞税の徴収計画の一時停止を求めた同州の要請を退けた。

ニューヨーク市のパークアベニューに設置された電子料金徴収システム「E-ZPass」とナンバープレートスキャンカメラ(1月3日)

これを受け、ニュージャージー州のフィル・マーフィー知事の報道官、ナタリー・ハミルトン氏は電子メールで「裁判所が渋滞税の導入を認めたことに失望している。われわれはこの不公平かつ不人気な制度と闘い続ける」と述べた。

FHAは、マンハッタンでの渋滞税導入によるニュージャージー州の交通や大気汚染への潜在的影響を緩和する取り組みに関する追加情報を求められており、提出期限は1月17日。その3日後の20日にはワシントンで政権が交代し、渋滞税導入に大きく影響を及ぼす可能性がある。

トランプ次期米大統領は昨年11月、この渋滞税は「逆進税」だとし、導入されればニューヨーク市の復活は「事実上、不可能」だと述べた。

ニューヨーク市のブラッド・ランダー会計監査官によると、トランプ氏は訴訟を通じて渋滞税の環境面におけるより長期的な審査を求めるか、行政措置により徴収を中止させる方法を模索する可能性があるという。

渋滞税の徴収計画は米金融情報サービス大手ブルームバーグの創業者、マイケル・ブルームバーグ氏がニューヨーク市長だった2007年に提案。その後、数年間に及ぶ紆余(うよ)曲折を経て昨年6月に導入される予定だったが、ニューヨーク州のキャシー・ホークル知事がその3週間前に、初期段階で15ドルは高すぎるとして導入を停止した。

ニューヨーク市のコロンバスサークルに設置された電子料金徴収システム「E-ZPass」とナンバープレートスキャンカメラ

環境保護活動家や一部のビジネス団体などは渋滞税計画の目標として、車両などの交通量を減らし、公共交通機関の利用者を増やすことで大気汚染が抑制されると強調している。

また地下鉄など約130万人が通勤に利用する公共交通機関の改修もニューヨーク市の将来とニューヨーク州の経済発展に必要とみられている。

一方、ニューヨーク州やニュージャージー州で選出された議員の一部からは、渋滞税は有料区域内の中小企業に打撃を与え、住民に新たな経済的負担を課すと警告している。

有料道路などで使用される電子料金徴収システム「E-ZPass」を設置している乗用車はピーク時に有料区域に乗り入れる際に1日に一度9ドルを支払う。小型トラックにはピーク時に有料区域に乗り入れるたびに14.40ドルが課される。

渋滞税は毎日徴収され、ピーク時の時間帯は平日で午前5時から午後9時、週末は午前9時から午後9時となる。

ウーバーやリフトなど配車サービスの利用者は1回当たり1.50ドル、タクシーの利用者は同0.75ドルを支払う。

渋滞税は2028年に12ドル、31年には15ドルに引き上げられる予定。

原題:NYC Congestion Pricing Takes Effect After Years of Delays (1)(抜粋)

--取材協力:Bob Van Voris、Sri Taylor.

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