トランプ政権でインフレ加速懸念
その背景には、もちろんトランプ次期政権の経済政策があります。中国だけでなく、友好国からの輸入品にも高い関税を課すという政策がアメリカの物価を引き上げることは間違いありません。また、トランプ政権が大型減税を始め、財政支出に積極的なことも物価押し上げ要因です。インフレ再加速で利下げどころではなくなるのではないかという懸念です。
そもそもコロナ後は、それ以前よりも物価が上昇する時代に入ったのではないかという、根本的な変化を指摘する声もあります。世界中から安いモノが自由に手に入り、世界中の安い労働力が使えるという「グローバル時代」はすでに終わりました。中国やロシアが西側世界と分断され、コストよりも経済安全保障の観点が重視される世界です。産油国が脱炭素時代をにらんで、原油価格もかつての水準に戻ることはなさそうです。
物価目標2%が通用しなくなったかも
過去20年以上、国際的なスタンダードだった「物価目標2%」の達成が、もはや難しい時代になっているのだとしたら、自ずと適切な金利水準も変ってきます。中立金利に関する論争が盛んになっている所以です。
世界の中央銀行は、まだ「物価目標2%」の有効性を信じており、現時点ではFRBもインフレ率2%にアメリカの潜在成長率1%程度を足した3%を中立金利と見ています。しかし。仮にインフレ率3%が常態化する世界なら、適正な金利は4%です。AI革命になどによってアメリカの潜在成長率がさらに0.5%上昇しているなら、金利4.5%でもおかしくないかもしれないのです。利下げの余地はほとんどないという市場関係者の見方と整合的です。
来年の世界経済の最大の焦点はアメリカのインフレの行方でしょう。それによってアメリカの金融政策の方向が大きく変わり、そのことは世界のマネーの流れを規定します。
アメリカの利下げが止まる、まして利上げに転じたら、円安はさらに加速されるリスクがあります。その際の日本経済の試練は並大抵ではないと、身構えるべきかもしれません。
播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)