アシックスの業績が好調だ。今期(2024年12月期)は売上高と純利益ともに過去最高を見込む。株価もここ1年で約3倍になった。20年12月期まで数年にわたって減収傾向が続いてきた同社だが、1980年代から90年代にはやったモデルの復刻版の投入で消費者の心をつかんだ。

日本電産(現ニデック)などを経て15年にアシックスに入社し、24年1月に最高財務責任者(CFO)に就任した林晃司氏は、この好機をつかみ事業の収益性を高めようとしている。トランプ次期米大統領の事業への影響や、運転資本管理の重要性などについて話を聞いた。一部インタビューは英語で行われ、読みやすさを考慮して編集した。

一問一答は以下の通り。

-トランプ氏は関税の引き上げを宣言しているが、どのような対応を考えているか

トランプ氏が初めて当選した時点では中国から米国への輸出を少し行っていた。ただ17年の就任後に輸出を取りやめ、今では中国から米国に輸送される商品はない。関税引き上げの対象が東南アジアにまで及ぶ場合、ベトナムとインドネシアなどで製造しているため、多少の影響が出るかもしれない。

-日銀の利上げはどのような影響をもたらすか

アシックスに入社した15年、当社は5年債を発行し、クーポンレートはわずか0.14%だった。他の日本企業と同じく、20年以上にわたって低金利の恩恵を受けてきた。ただ日本での金利が上がる中、米国や欧州市場でも資金調達をする必要がある。25-26年に計500億円の社債が償還期限を迎えるが、どの市場で資金調達を行うかは協議中だ。

-為替市場ではドル高の一方、日本円は不安定な状態が続いた。為替リスクにはどう対応していくか

ドルを基軸に、主要通貨に対して3年間の平均を取る為替予約によるヘッジを行っている。シューズ業界では世界各地のサプライヤーは米ドルで支払いを求めるためドル高では製造コストが上昇する。為替で収益が低下する状況になれば製品の値上げをしてコストを転嫁する。それが過去1-2年で起きたことだ。ただ、これから円高方向に為替が進んだとしても、商品価格をすぐに下げることはないだろう。

-運転資本の改善に取り組んでいる

以前よりも多くの現金を生み出すことを目標に掲げている。7-9月期(第3四半期)には、売上高を10%以上伸ばしたが、在庫は約10%減った。当社の在庫保有日数は約140日だが、米ナイキでは100日だ。改善の余地はまだある。

-7月にメガバンクによる最大約2180億円のアシックス株の売り出しを発表し、アシックスも同様に保有する政策保有株全ての売却を発表した。どのような意図があったのか?

銀行が株主に入っていると安心安定で、株主総会でも賛成してくれて、経営的には楽かもしれない。しかし、ナイキやアディダスと比較する中で、株主構成などは「ザ・ジャパン」で政策保有株もあったためグローバル規模の投資家や個人投資家の保有を増やしたい狙いがあった。売り出しでは日本の銀行に株主から降りてもらうようにお願いした。長期的株主がいなくなったため世界中のどこででも資金を調達できる環境を整える必要は出てきた。

-アクティビスト(物言う株主)の動きが活発になっているが、どのように対応しているか

アクティビストも株主であることに変わりはない。彼らとは長年つきあいがあるが、昔と違ってむちゃなことも言わない。彼らもずいぶん変わった。

-競合に対する勝算は

企業規模は異なるものの、ナイキなどに勝てる分野はあるとおもう。アシックスがまだ隠している切り札はあるが、今は言えない。来年には驚いてもらえるような、よりいい商品を出せると思う。

--取材協力:Nina Trentmann.

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