キャリアプランをもつ人は多くはない

しかし、自分のキャリアの将来像や希望の働き方については、明確になっていない人も多い。正社員に将来希望する働き方をたずねた調査結果は下記のとおりである。

「会社幹部、管理職としてマネジメントの仕事に就きたい」「専門的な知識・技能 を活かせる仕事に就きたい」といった具体的な希望をもつ人は半数弱に止まり、 25.9%が「なりゆきにまかせたい」、21.6%が「わからない」と回答している。他の調査でも、自分自身のキャリアプラン(私生活を含めた職業人生のプラン)の有無について、全体の7割以上が「特に考えていない」と回答しており、キャリアプランを描いている人は少数派となっている。自分でキャリアプランを描きたいと考える人は多いものの、実際に描けている人はあまり多くないというのが実態のようだ。

いまだ多い会社主導の人事異動

具体的なキャリアプランをもつ人が少ない要因の 1 つとして、人事異動が企業主導 で行われていることが挙げられる。労働政策研究・研修機構(2020 年)によると、 60.3%の企業が「異動には従業員の意見・希望をできるだけ反映させる」よりも、 「会社主導で行う」という考え方に近いと回答している。そのような環境では、特定の職種でキャリア目標をもちスキル向上に励んだとしても、数年後には望むキャリアと関係のない職種に異動するかもしれない。そのため、働く人にとってはキャリア目標を立てにくいといえる。

しかし、そうした企業主導のキャリア形成にも変化の兆しが見られる。同調査によると、従業員300人以上の企業の51.1%が「従業員の今後の仕事・キャリアへの意向を把握する制度」を導入している。また、従業員が自ら応募する異動制度(社内公募制/社内FA制度)の導入企業数については、各種調査で結果に幅があるものの増加傾向が示されている。

企業が個人のキャリア自律を支援していくことは、組織コミットメントや積極的な職務行動につながるなど、企業にポジティブな影響を与えるという見解もある。そのため、従業員のキャリア自律を支援する制度を導入する企業は今後も増えると見込まれ、人事異動のあり方も一人ひとりの意思をより尊重するような方向に進むのではないだろうか。