ここ数ヶ月の内外政治混
通常の経済分析では、政治動向は無視されやすい。しかし、ここ数ヶ月に起こった政治情勢の変化は著しい。
岸田前首相が8月14日に不出馬を表明し、9月28日に自民党総裁選挙が行われた。石破首相で戦った衆院選は与党が過半数を割って、国民民主党がキャスティングボードを握った。誰がこうした展開を事前に予想できたであろうか。
「103万円の壁」問題にしても、9月末時点でこれほど議論されるとは誰一人思っていなかっただろう。その議論は「106万円(130万円)の壁」見直しにまで波及し、非正規労働者が新たに負担する社会保険料を労使折半ではなく、その大半を企業などに負担させるという議論になっている。
こうした予想外の展開に、中小企業団体は反発している。
海外に目を転じると、11月の米大統領選でトランプ氏が次期大統領に就任することが決まった。最近はトランプ関税に怯えている企業も数多くあるようだ。
これほどまでの急激な不確実性の高まりは、近年でも稀ではなかろうか。
企業の景況感は、収益状況次第というのがエコノミストの常識であるが、そうは言っても、内外政治情勢の混乱は、企業の景況感にも何がしかの悪影響を及ぼしているのではないかと筆者は直感している。
12月利上げの慎重材料
日銀は、目先の混乱をよそに粛々と金利正常化を進めるつもりのようだ。
12月20日の金融政策決定会合で追加利上げを決める公算は高い。経済物価のシナリオ通りであれば、金利水準を段階的に引き上げていくと考えられる。しかし、仮に、直前の短観の結果が業況悪化になれば、その判断は修正されるだろうか。中村審議委員はデータ次第と述べて、この短観にも注目するとしている。短観結果が思いのほか悪ければ、12月ではなく2025年1月の利上げに傾く可能性はゼロではない。
短観が日銀の判断を慎重化させる可能性はある。その点、筆者はたとえ短観が多少悪くても、トランプ就任前に追加利上げをする可能性があるとみる。1月24日の会合のタイミングは、トランプ就任の1月20日の後になる。トランプ関税の全貌が明らかにされそうな手前を植田総裁は選ぶのではないだろうか。
(※情報提供、記事執筆:第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト 熊野英生)