(ブルームバーグ):日本銀行の中村豊明審議委員は5日午後、広島市内で行った記者会見で、利上げに反対しているわけではないとし、データに基づき判断するとの考えを示した。同日午前の講演では、利上げに慎重とも受け止められる発言をしていた。
中村氏は年内に利上げする可能性を問われ、「反対しているわけではない。経済の回復の状況に応じて変えていくべきであり、データやヒアリング情報に応じて判断していくべきだ」との見解を示した。現状は利上げの是非を判断するのに情報が少な過ぎるとし、具体的に日銀短観や毎月勤労統計、国内総生産(GDP)の2次速報などを挙げた。
同日午前の広島県金融経済懇談会で中村氏は、日本経済の抱える構造的な問題や中小企業を中心に投資の回復が遅れているため、「私としては、まだ賃上げの持続性に自信を持てていない」と指摘。その上で、「経済の回復状況に応じて金融緩和の度合いを慎重に調節していくことが重要な局面だ」と発言しており、会見で先行きの政策は改めてデータ次第と強調した。

日銀は、経済・物価が見通しに沿って推移すれば利上げを続ける方針を示している。植田和男総裁は先月28日の日本経済新聞とのインタビューで、データは想定通りで追加利上げの時期が近づいていると述べる一方、賃上げと米国経済の動向を見極めたいの見解を示した。中村氏も予断を持たない姿勢を明確にした。
中村氏の午後の発言後、外国為替市場の円相場は上昇幅を拡大。対ドルで一時149円66銭まで上昇した。市場では、日銀が今月の決定会合で追加利上げを決定するとの期待が高まっていたが、一部の国内メディアによる否定的な報道で急速に後退。外国為替市場で円安圧力となっていた。
中村氏は、3月のマイナス金利解除や7月の追加利上げに反対票を投じ、9人の政策委員の中で最もハト派に位置付けられている。この点に中村氏は、「私は超ハト派と言われているようだが、決してそういうつもりでない。経済の状態に沿って改革をしていけばいい」と説明した。
同日午前の講演では、2%の物価安定目標の持続的・安定的な達成には企業の稼ぐ力の向上が必要との持論を改めて表明し、「これには相応の時間がかかる」との認識を示した。一方で、物価上昇に負けない賃上げと投資がけん引する成長型経済への変革の芽が出ているとも述べ、多くのデータやヒアリング情報で、経済の回復状況を丁寧に確認していきたいと語った。
消費は力強さ欠く
消費者物価(生鮮食品を除くコアCPI)の動向については、「私自身は、2025年度以降は 2%に届かない可能性があると考えている」と指摘した。日銀は10月に公表した経済・物価情勢の展望(展望リポート)で、25・26年度のコアCPIは2%程度で推移する見通し(政策委員見通しの中央値)を示している。
個人消費に関しては、「物価上昇や節約志向の影響などにより、力強さに欠けている」と分析。設備投資計画が先送りされる可能性や、中国をはじめとする海外経済の下振れなども勘案し、経済成長率見通しについては政策委員見通しの中央値より低い伸び率を想定していると語った。
(記者会見での発言を追加し、更新します)
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