「年収の壁」は社会保険料の議論へ

筆者は、日本の政治はなるべく早く「年収の壁」の議論を決着させて、外交・安全保障に注力した方がよいと考える。2025年1月にはトランプ政権が誕生する。対中外交が大きく動き、トランプ関税が各国に対して課される可能性がある。わが国の重要課題が次々に浮上する中で、「年収の壁」問題での与野党協議に大きな時間を割いている余裕はないのではないか。このことは野党も承知しているはずだ。

「年収の壁」問題に関しては、税の壁よりも社会保険料の壁の方がよりハードルが高い。しかも、106万円・130万円の壁は、配偶者の利害を巻き込むという意味でよりインパクトが大きい。この問題は、社会保険料のしわ寄せを、特に中小企業に対して強いることがないようにしてほしい。また、週20時間以上を保険料対象者にするという基準になると、働き手からはかえって規制強化的印象になってしまう。そうした実情を是非、超党派で議論する場を作って、税と社会保険料を一体のものとして改善するようにしてはどうだろうか。野党の側には、日本全体の制度設計について、もっと建設的な議論を進めていただきたい。

(※情報提供、記事執筆:第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト 熊野 英生)