Q6.103万円以外の社会保険料の壁はどうなるのか

A.厚生労働省は、別にある106万円と130万円の壁の解消に動き始めた。厚生年金の加入義務の縛りのところを、106万円・130万円から、主に「週20時間以上」に絞ろうとしている。2025年4月からの見直しになるのだろうか。

現在のパート時給(毎月勤労統計で計算したもの)を使って試算すると、週20時間=月86.66時間は年収140万円になる。このくらい境目が高くなることは歓迎される。

ただし、こうした措置は、これまで厚生年金への移行を仕方がないと受け止めて、厚生年金への加入を決めていた人からすれば、「加入する義務はルール変更でなくなりました」という方針変更になる。特に、従業員規模51~100人の事業所などでは混乱が起こるかもしれない。この混乱は、扶養者だけではなく、配偶者のところでも大きく広がりかねない。

細かいことを言えば、扶養控除に併せて、勤労学生控除の適用を受けてプラス・アルファの控除枠をもらえば、親は扶養控除38万円(特定扶養控除は63万円)の枠を失う。これも「見えない壁」になっている。利用者の目線で考えて、制度を工夫することも大事だろう。

そもそも、「年収の壁」問題が財務大臣の所管と、厚生労働省の所管で分かれて議論されてきたことは、問題解決を複雑にしてきた。政治はこうした役所の壁をなくす役割で動いてほしい。政治の視座は、年金・税、そして健康保険(=医療)に亘って広範囲に影響する事柄について、一体のものとして負担軽減の余地がないかを検討すべきだ。

ただし、その手続きは、政治が問題提起をして、専門家への諮問を得て進めるのが本筋だろう。丁度、米国のトランプ前政権をみても、何事も政治判断が正しいみたいな世界になると、それに賛成でない国民の多くは大混乱に陥る。特に、税や社会保障の議論は、選挙公約で細かな部分まで決めるのではなく、もっと慎重に熟議を尽くした方がよい。ここは石破首相に責任者としてしっかりと日本の舵取りをしていただきたい。

(※情報提供、記事執筆:第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト 熊野 英生)