Q3.大きな減税規模にすると、消費刺激・企業業績の押し上げができるという国民民主党の主張はどうか

A.経済効果は、不安定である。岸田前政権の定額減税は、多くが貯蓄に回り、7-9月の消費刺激効果は乏しかったと思われる。財政の規模として3.5兆円もの資金を使った減税は、十分な需要を喚起できなかった。その理由は、1回切りの減税だからだと言う人もいる。それも証明はできない。

国民民主党の主張通りに、103万円の境目を178万円(+75万円)に上げると、7.6兆円の税収減になるとされる。確かに、毎年7.6兆円もの減税が継続すると、定額減税よりは支出に回る可能性はある。それでも、一部が貯蓄されるから、7.6兆円を上回る効果は見込めないだろう。恒常的に財政収支を悪化させる。

Q4.基礎控除引き上げで、税収が▲7.6兆円減ってしまうと財政再建が頓挫するのではないか

A.税収減の▲7.6兆円によって、政府の財政赤字が増える。2025年度は、国・地方を併せて基礎的財政収支が黒字化するチャンスが久方ぶりに訪れている。ようやく、政府債務の元本を減らせるところまで来た。過去、日本の歴史では、バブル期のように財政再建を果たせるチャンスを歳出拡大や減税で逃してしまった経験がある。

また、現在、日銀が利上げを進めており、今後、長短金利が上昇していきそうな可能性が高まっている。だからこそ、政府は努力して、債務の元本を減らさなくてはいけない局面だと考えられる。

一方で、物価上昇対策には、需要刺激よりも、過度な円安を抑える方が有効と考えられる。その準備として、今やるべきことは経済体質を強靱化することだ。企業の財務体質を強化して、ゆっくりと日銀が利上げをする方が物価は安定する。

2025年1月にトランプ政権になれば、さらに円安が進むだろう。トランプ政権の不確実性に備えて、日本企業の国際競争力を強化することこそ、政府が目指すべきことだ。生産性が上がれば、賃金も増やせる。

Q5.財源の穴はどう埋めるべきか?

A.政府の税収が増えているから、減税は可能だという人もいる。国税だけでみても、2020年度60.8兆円から2021年度67.0兆円、2022年度71.1兆円、2023年度72.1兆円と飛躍的に伸びている。2024年度は定額減税で▲3.5兆円の減収が見込まれるが、それでも69兆円前後の税収が期待される。

しかし、税収増を減税で使ってしまうと、財政赤字は減らせなくなる。もしも、税収増がこの調子で進んでいけば、前述のように、政府債務の元本を来年度(2025年度)には減らし始められる公算が高い。基礎的財政収支の黒字化に手が届く。

確かに、筆者は「年収の壁」への対応はすべきだと考える。しかし、国民民主党の言うような+75万円の控除拡大は大きすぎると考える。そうした大番振る舞いは慎み、103万円の壁はひとまず120万円を落とし所にするのが合理的だと考える。仮に、+75万円→+17万円になれば、減税になる規模は1/5近くまで圧縮される。金額で示すと、▲7.6兆円の税収減が▲1.7兆円で済む。

さらに、工夫する余地はないのかを考えると、中高所得層のところでは、給与所得控除を減らすという方法もある。例えば、年収800~900万円当たりで、基礎控除を上げた分、給与所得控除を引き下げて、合計の控除額を中立化する。これは、前例として、2020年に配偶者控除の壁を是正した経験を参考にしている。もちろん、+75万円の基礎控除額の調整は選択せず、+17万円の調整にするケースにおいてである。さらに、給与所得控除の上限調整をすれば、▲1.7兆円の税収減も回避できる可能性もある。