2024年8月29日、台風10号による豪雨が東海道新幹線の全線運転停止をもたらし、多くの人々が予期せぬ困難に直面した。この事態は、交通網が停止した際のITツール、特に交通のネット予約システムやWEB会議ツールの活用が、現代社会においていかに重要であるかを如実に示すこととなった。運行停止となった各駅や主要都市では、多くの乗客がスマートフォンを駆使してホテルを探す姿が見られ、オンライン予約システムの利便性が浮き彫りとなった。

代替交通手段の確保においても、航空機や長距離バスのオンライン予約システムが大きな役割を果たした。これらのシステムは、突発的な需要増加に対応し、多くの人々の移動手段を確保するうえで不可欠なツールとなった。一方、仕事ではWEB会議ツールが重要な役割を果たした。予定していた対面での会議や商談を急遽オンラインに変更せざるを得なくなった人々にとって、これらのツールは業務継続の生命線となった。

しかしながら、これらのITツールの活用には課題も浮き彫りとなった。安定したインターネット接続の確保、セキュリティの問題、そしてユーザーのデジタルリテラシーの差異など、緊急時におけるITツールの有効活用にはまだ多くの問題があることが明らかとなった。今回の事態は、交通網が停止するような緊急時において、ITツールが果たす役割の重要性と同時に、その活用における課題も明確に示すこととなった。

本稿では、これらの課題に対する、いわば「デジタル防災力」の重要性について詳しく検討し、より効果的なITツールの活用方法や、それを支える社会システムのあり方について考察する。

デジタル技術が命綱となった72時間の帰宅難民奮闘記

今回の新幹線運休による混乱は、多くの人々が実際に直面した切実な問題であった。本節では、筆者自身が経験した3日間にわたる帰宅難民としての奮闘を記すことにより、デジタル技術が緊急時にいかに重要な役割を果たすかを具体的に示す。宿泊先の確保、代替交通手段の手配、業務継続のための課題に対し、実際にICTがどのように活用され、どのような困難が生じたかを明らかにしたい。

まず、筆者の本来の予定と実際の結果を比較した表を以下に示す(図表1)。

この表からわかるように、筆者の予定は大きく狂わされることとなった。以下、日を追って詳細を述べる。

2024年8月29日、台風10号がもたらした未曽有の豪雨は、筆者の予定を根底から覆した。大阪から直ちに帰京するはずが、72時間に及ぶ帰宅難民生活となったのである。

15時57分、大阪駅を出発した新幹線は、わずか1時間ほどで米原付近で突如として停車した。車内アナウンスは次第に不安を煽るものとなり、窓の外では激しい雨脚が視界を遮っていた。暗闇の中、車内の乗客たちは不安そうな表情を浮かべ、スマートフォンを必死に操作し始めた。筆者も例外ではなく、刻々と変化する運行情報をリアルタイムで確認しながら、最悪の事態に備えてホテル予約サイトを立ち上げた。米原駅での長時間の停車後、新幹線はなんとか運行を再開した。6時間を超える車内待機の末、ようやく名古屋駅まで辿り着いたものの、そこで運行中止となった。一瞬にして駅構内は混乱の渦に巻き込まれ、宿泊先を求める人々で溢れかえった。この状況下では、スマートフォンが唯一の頼みの綱となった。予約サイトの画面は目まぐるしく変化し、空室が表示されては瞬時に消えていく状況であった。焦燥感に駆られながら、なんとか市内のビジネスホテルを確保できたときの安堵感は、言葉では表現できないほどであった。

翌30日、ホテルの一室が臨時のオフィスと化した。15時からのウェブ講演を控え、インターネット接続の安定性に神経を尖らせる状況であった。幸い、ホテルのインターネット環境は良好で、聴講者に迷惑をかけることなく講演を完遂できた瞬間、デジタル技術の恩恵を心から感じた。

31日、東京への帰路を急ぐ筆者の前に立ちはだかったのは、依然として復旧の目処が立たない新幹線であった。スマートフォンを片時も離さず、あらゆる交通情報サイトを巡回し続けた。そして、名古屋から長野経由で東京へ向かう迂回ルートを発見した。しかし、朝の特急しなのはすでに満席であった。必死の予約操作の末、ようやく12時発の切符を入手できたときは喜びを抑えきれなかった。だが、安堵もつかの間、駅に到着すると1時間30分の遅延が告げられ、その後、ついに終日運休の悲報がもたらされた。再び途方に暮れる筆者を救ったのは、またしてもスマートフォンのホテル予約アプリであった。残り少ない部屋を瞬時に確保し、再び名古屋で一夜を過ごすこととなったのである。

9月1日、朝9時のしなの予約を何とか手に入れるも、駅に着くなり人身事故による運休が告げられた。絶望的な気分に襲われながらも、諦めきれずスマートフォンの画面を凝視し続けた。予約画面を執拗に更新し続けること数十分、奇跡的に10時発の指定席をキャンセル待ちで確保できた。

この72時間に及ぶ帰宅難民体験は、筆者にとってデジタル技術の真価を身をもって知る機会となった。オンライン予約システムがなければ宿泊先の確保は不可能であっただろうし、リアルタイムの交通情報更新と即時予約機能がなければ、あの混乱のなかで帰路を見出すことはできなかったに違いない。そして、安定したインターネット環境がなければ、仕事の継続も危ぶまれたのである。この経験は、緊急時におけるデジタルリテラシーの重要性を痛感させると同時に、さらなる技術革新と情報インフラ整備の必要性を強く認識させるものとなった。