ただし、インフレ予想の高止まりの可能性には警戒感

インフレ予想については、「もし我々が、長期的なインフレ期待がより高い水準で固定化していると見たら、我々は懸念するだろう。我々が見ているのはそういう状況ではない」と、インフレ予想の高止まりについては気にしている様子だった。インフレ予想については別の記者からも足元で上昇していることを指摘され、パウエル議長は「我々は依然として、調査と市場の読みが概ね一致している状況を見ている。今日、私は5年物を見直したが、おそらく動いているだろう。しかし、それはちょうど…今までのところとほぼ同じだ。また、個人消費支出(PCE)のインフレ率2%とほぼ一致している。これは、我々が従来から注目しているものだ。全体として、この間、インフレ率2%と一致するような見通しが立てられてきた。しかし、あなたが言うように、我々はそれを非常に注意深く監視しており、インフレ期待が上昇するのを許さない。しかし、だからこそ、2022年に我々は急激な反応を示したのだ」と、長文で回答した。要約すると、トランプ相場の流れで債券市場はやや不安定なため現在はインフレ予想が上がっていることを無視したいが、無視していると思われてインフレ予想がさらに上がっていくことは困る、ということだろう。

12月も「様子見」としての25bp利下げへ

パウエル議長が「様子見」の姿勢を強調したように、今後の米経済の行方については不確実性が高い。具体的に列挙すると、①失業率悪化が止まった労働市場、②順調に改善しているように見えるインフレ状況、③トランプ氏の経済政策の影響、④トランプ相場による株高の影響、⑤トランプ相場による金利上昇の影響、といったものがある。

筆者は米国経済が安定的に推移し、世界経済の減速によって米国のインフレ率も鈍化傾向が続くと予想しているが、不確実性が高いことは事実である。金融市場も不安定な状況が続く可能性が高い。そして、米経済は強い金融市場に支えられている。9月のFOMC議事要旨では、FRBの利下げ幅(50bp利下げ)の決定に対して市場が悲観的に受け取らないようにすべきという主張があった。FRBは過去の大幅利上げでも堅調だった金融市場の動きそのものにリスクが蓄積していると考えているとみられ、市場に迎合した政策運営が続く可能性が高い。FF金利先物市場では、12月の利下げが約75%織り込まれている。12月17-18日のFOMCまで1ヵ月以上あるが、現状では12月も25bpの利下げが行われると考えるのが無難だろう。その後は、利下げペースが緩やかになるという市場予想になっているため、3、6、9、12月の年4回利下げへのペースダウンを目指す可能性が高い。

FOMCは無風だがイベント通過で米金利は低下、BEI低下でパウエル議長も一旦安心か

FOMCの結果やパウエル議長の会見から新たなヒントはあまりなかったが、長期金利は低下方向で反応した。この日は、トランプ相場(財政やインフレへの懸念による長期金利の上昇)が落ち着く中で長期金利が低下基調だったが、FOMCはこの流れを変えるものではなかったのだろう。長期金利は前日差約▲10.6bpで、実質長期金利は同▲7.3bp、10年BEIは同▲3.0bpだった。

トランプ氏が大統領選で勝利したことを受け、10年BEIは11月6日に2.40%となったが、この日は2.37%に低下した。24年4月の2.42%を超えることはなかったことから、パウエル議長も一安心といったところだろう。トランプ氏のイレギュラーな発言や、不安定な中東情勢によって原油価格が上がることなどがリスクだが、基本的にはイベント通過によって名目金利、実質金利、BEIはそれぞれ低下する可能性が高い。インフレ予想の高まりによってFRBのスタンスがタカ派化する可能性は低いと、筆者は予想している。

(※情報提供、記事執筆:大和証券 チーフエコノミスト 末廣徹)