世界中で注目を浴びる人工知能(AI)に投資家が殺到し、気候テクノロジー系スタートアップの資金調達が困難になっている。気候変動に対処しようと急ぐ業界にとっては、最悪のタイミングだ。

ブルームバーグNEF(BNEF)のデータによると、世界全体で7-9月(第3四半期)に気候テクノロジー系企業が公開・非公開市場で株式を通じ調達した資金は約103億ドル(約1兆5800億円)。このままいけば、今年の年間調達額は約50%減となりそうだ。

一方、AI関連の資金調達額は増加しており、ピッチブックの推計によれば、この分野のスタートアップは7-9月に210億ドル以上を集めた。

「AIは部屋の酸素をすべて吸い尽くしてしまった」と気候変動関連のスタートアップに投資するプレリュード・ベンチャーズのマネジングディレクター、マット・エガーズ氏は話した。

気候テクノロジー関連企業の資金調達に影響を与えているのは、AIとの競争だけではない。生成AIを巡る2023年の熱狂以前にも、高金利やインフレ高進、地政学的な混乱ですでに減少傾向にあった。この新興分野にとって重要な時期において、気候変動対策への投資が減速していることは、取り返しのつかない結果を招く恐れもある。

気候変動の壊滅的な影響を抑制する好機は既にしぼみつつあり、革新的な気候テクノロジーへの投資加速の必要性が強調されている。

AIの駆動に必要とする膨大な電力を賄うため、化石燃料をこれまでの想定以上に長く使い続けることになる可能性がある中で、失敗は許されない状況だ。

マッキベン氏(ニューヨーク州ラインベック)

環境保護活動家で作家のビル・マッキベン氏はニューヨーク州ラインベックで行われたイベントで、「最良の科学によれば、私たちが活動できる期間は限られている。急ぐ必要がある」と述べ、特に米大統領選直前の今は「実際に介入できる最後の意味のあるチャンス」だと訴えた。

投資家離れの背景にあるのは、気候テクノロジーのスタートアップの多くが、最も資本集約的でハードウエアに重点を置いた開発段階に近づいている、あるいはそうした段階に入っているという事実だ。

これまで実用化されたことのないテクノロジーを商用化するには、政策による支援が経費削減と需要喚起につながらない限り、コストが膨らみ、リスクも大きい。

AIの規模拡大にはインフラ拡充と資本投資も必要だが、投資家に対し気候テクノロジーと同程度のリスクテイクを必ずしも求めるものではない。比較的未成熟で未知の要因が多くある気候テクノロジーは、より多くのリスクをはらんでいる。

一方、AIスタートアップの中には数十億ドルを稼いでいる企業もあり、収益性の明確な道筋を求める一般的な投資家にとっては魅力的な投資先だ。

テクノロジー業界で財を成し、対話型AI「ChatGPT(チャットGPT)」の米オープンAIに出資しているビノッド・コースラ氏は、「われわれはデータセンターの構築方法を知っている」が、究極のクリーン発電とされる核融合のような初期段階の気候テクノロジーについてはそうしたことは言えないと語った。

核融合発電の実用化はまだ何年も先で、グリーン水素もいまだ初期段階だ。ただし、投資家はAIの強烈なエネルギー需要に対応する機会を探っているだけに、核融合とグリーン水素への関心はいずれも増す可能性がある。

気候テクノロジーという分野は、炭素隔離やエネルギー貯蔵、製鉄の脱炭素化、干ばつ耐性作物の育成など多岐にわたる産業だ。そのため、すべての分野が同じような影響を受けているわけではない。

堅実なユニットエコノミクス(単位当たりの経済性)や強い需要、商業的成功への明確なめどのある際立った気候関連企業は、依然として大型の資金調達を行っている。

例えば、空気鉄電池のスタートアップ、フォーム・エナジーは最近4億500万ドルを集め、資金調達の総額が12億ドルに達した。

市場情報会社サイトライン・クライメートの共同創業者で最高経営責任者(CEO)のキム・ゾウ氏は、気候変動への対応を明確な使命とする投資対象を絞ったファンドは引き続き気候セクターで活発だと指摘し、撤退しているのはむしろ「ツーリストインベスター(観光客のような投資家)」だと述べた。

原題:AI Drains Investment From Climate Tech at a Key Inflection Point(抜粋)

--取材協力:Musfika Mishi.

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