(ブルームバーグ):合成リスク移転(SRT)について知らない読者は、次の金融危機が起こった際に、その詳細を耳にする機会があるかもしれない。
これは、システムを保護するために策定されたルールを大手銀行がうまく利用する最新の方法であり、急速に拡大している。しかし、今のところ規制当局はほとんど気付いていないようだ。
金融システムの強靭(きょうじん)さは、銀行のバランスシートの資本部分に大きく依存している。資本は、債権者とは異なり、損失を吸収することに同意した株主からの資金だ。
銀行の資本が多ければ多いほど、困難な時期にも融資を続けることができる。しかし、銀行経営陣は負債を多く用いることを好む。なぜなら、負債にはさまざまな政府補助金が付き、好況期には重要な収益指標を押し上げるからだ。
グローバルな大手銀行は最近、自己資本を最小限に抑えることに成功している。米国でも欧州でも、自己資本要件の引き上げを回避している。
その結果、銀行の自己資本は全般的に資産の5-6%程度にとどまっており、専門家や調査機関が深刻な危機を乗り切るために必要と指摘する水準を大幅に下回っている。
しかし、それでもまだ多過ぎると考えている銀行は、2008年のサブプライム危機以前の慣行を復活させた。ローンを証券化し、損失リスクに対する保険を他の金融機関から購入することで、必要資本を少なくする手法だ。
銀行は資産を保有し、リスクは他の場所に移ったことになっている。これがSRT、つまり合成リスク移転(synthetic risk transfer)だ。重要な(significant)リスク移転とも呼ばれる。
SRTは急成長している。23年末時点で、合成証券化資産の関連プールは6140億ユーロ(約102兆円)に達した。7年前はわずか50億ユーロだった。
欧州の企業向け融資が大半を占め、米国の自動車ローンおよびその他の個人向け融資がそれに続く。プライベートクレジット会社や年金基金を含むリスクの引き受け手は8-12%のリターンを得ている。

SRTには銀行のエクスポージャーの再調整など、正当な用途がある。しかし、それには独自のリスクが伴う。株主資本とは異なり、あらゆる損失を吸収するわけではない。
指定された資産のみに適用され、カウンターパーティーが支払えない場合、危機に際して価値がゼロになる可能性がある。08年には、保険会社アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)でそうした事態が起こりそうになり、米史上最大級の救済措置が必要となった。
今はさらに悪いことに、ひねりが加わっている。ブルームバーグ・ニュースが報じたように、銀行は保険を提供しているのと同じノンバンク金融機関に融資している。
つまり、全体として見ると、リスクの一部はまったく銀行システムから離れていないということだ。このような「循環取引」の規模を把握するのは難しいが、ノンバンクに対する銀行の信用供与はここ数年急増している。米国では、22年に1兆8000億ドル(約275兆円)を超えた。
規制当局が警鐘を鳴らすだろうとの考えもあるかもしれない。しかし、欧州中央銀行(ECB)は、銀行が取引相手に対するエクスポージャーを十分に理解していないという自らの調査結果があるにもかかわらず、合成リスク移転の促進に取り組んでいる。
欧州は投資を促すために証券化をさらに進める必要があるが、それは価値不明の不透明な契約ではなく、透明性のある資産売却を伴うべきだ。
国際通貨基金(IMF)が強く求めているように、少なくとも規制当局は大部分がプライベート取引である証券化商品とその潜在的なシステミックリスクを評価するために必要なディスクロージャー(情報開示)を義務付けるべきだ。
そして、究極的には、劣悪な代用品で妥協するのではなく資本増強を銀行に求める必要がある。本物に勝るものはない。
原題:Banks’ New Trick Could Mean Trouble for Everyone: Editorial(抜粋)
記事についての記者への問い合わせ先:Berlin Mark Whitehouse mwhitehouse1@bloomberg.net記事についてのエディターへの問い合わせ先:Timothy L O’Brien tobrien46@bloomberg.netMark Whitehouse
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