(ブルームバーグ):韓国最大の企業サムスン電子は、つい数カ月前まで世界的な人工知能(AI)ブームの恩恵に十分にあずかることができるように見えていた。利益は急増し、株価は上場来高値に向かっていた。
だが突然、時価総額が急減。サムスンは今や、技術的優位性を維持する企業が利益を出せる業界において、運命がいかに急速に変わり得るかを示す顕著な例となっている。
AIメモリーで韓国のライバル、SKハイニックスに、半導体の受託生産で台湾積体電路製造(TSMC)に後れを取っているのではないかという懸念が強まり、サムスンの株価は7月9日に記録した今年の高値から29日の終値時点で32%下落した。
この間に失った時価総額は1220億ドル(約18兆7000億円)と、世界中のどの半導体メーカーよりも大きい。

外国人投資家は7月末以来、サムスン株を約107億ドル相当売り越している。サムスンは競争力を回復するため大規模な改革を約束しているが、ピクテ・アセット・マネジメントやジャナス・ヘンダーソン・インベスターズなど国際的な資産運用会社は、すぐに業績が回復するとは考えていない。
ジャナスのポートフォリオマネジャー、サット・ドゥーラ氏(シンガポール在勤)はサムスン株について、「7月時点ではわれわれの戦略上で最大のポジションだったが、数カ月間でポジションを半分以下に減らした」と明らかにした。
サムスンの株価は魅力的な水準まで値下がりしたものの、現時点で購入するつもりはないとも述べた。
HBM
サムスンの売上高は依然としてスマートフォンやその他の家電製品が大半を占めているが、ここ数年は半導体が最も大きく利益に貢献している。
半導体事業における最近の危機を受け、サムスンは10月に入り、期待外れの業績となったことについて投資家に対し異例の謝罪を行った。
サムスンの暗転は、AIが今日の半導体業界で勝ち組と負け組を分かつ重要な要因となっていることを浮き彫りにしている。
外国人投資家がサムスンから資金を引き揚げたのとは対照的に、AI半導体でリードする米エヌビディアは世界最大級の企業に成長。エヌビディアや米アップルが設計した半導体を受託生産するTSMCの市場価値は、今年に入って3300億ドル余り膨らんでいる。
サムスンを巡る状況の変化は急だった。4-6月期の営業利益が15倍に急増したことを受け、同社の株価は上場来高値に迫る勢いを見せていた。
ほんの8月まで、エヌビディアにAIプロセッサーと併用する広帯域メモリー(HBM)を供給することで、サムスンがさらなる事業拡大を達成できるだろうと投資家たちは楽観視していた。
しかし、そうした期待は10月にサムスンが最新世代のHBM半導体で出遅れていると認めたことで打ち砕かれた。SKハイニックスが量産開始を発表した直後のことだった。
米マイクロン・テクノロジーもHBNへの取り組みを強化しており、同社の製品に対する需要は堅調だと報告している。
ピクテでグローバル新興国市場高配当チームのシニア投資マネジャーを務めるイ・ヨンジェ氏(ロンドン在勤)は、サムスンが「半導体事業におけるテクノロジーのリーダーシップを失いつつある。そうしたリーダーシップは短期間で回復させるのは難しい」と指摘し、ピクテはサムスン株の保有を減らしていると語った。
原題:Samsung’s Sudden $122 Billion Fall Shows Cost of Missing AI Boom(抜粋)
--取材協力:Karen Yang、Selcuk Gokoluk、Heejin Kim.
もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
©2024 Bloomberg L.P.