(ブルームバーグ):JPモルガン・チェースは米国で水の供給に大きなひずみが生じており、米経済に打撃を与え、企業の価値を低下させる可能性があると指摘した。
JPモルガンとサステナビリティー(持続可能性)に関するコンサルティング会社ERMが28日に発表したリポートによると、米国の水資源はすでに逼迫(ひっぱく)しており、人工知能(AI)ブームによってさらにストレスがかかっている。
この調査は、電力消費量の多いデータセンターでの冷却や半導体製造のために膨大な量の水を必要とするAIの成長が、いかに気候変動という現実にぶつかっているかを示している。その結果、需要が急増する一方で、降水傾向が一定でないため、危険な水不足につながっている。
JPモルガンのコーポレートアドバイザリー部門グローバルヘッドで、このリポートの主執筆者であるラマ・バリアンカバル氏は「AIとデータセンターは課題の規模を拡大させているが、同時にこの問題にスポットライトを当てている」と、ブルームバーグにメールでコメントを寄せた。
大規模なデータセンターでは、1日に500万ガロン(約1万9000立方メートル)もの水を使用することがあり、これは人口5万人の町が使用する量にほぼ匹敵する。半導体の製造に必要な何十億ガロンもの水に加えてだ。
水リスクの取り扱いを誤れば、「グローバルサプライチェーンに真の混乱を引き起こしかねず、特にAIの急速な成長によってその影響が顕在化する」と、リポートの著者は記述。半導体製造とデータセンターの冷却作業の両方に水は「不可欠」であり、2つの「極めて重要なAI関連の事業活動」だという。
アリゾナ州のような高温で水不足の地域への移住の増加や、かつて他国に委託していた製造業務の回帰が米国の水不足に拍車をかけていることも調査で判明した。
JPモルガンとERMによれば、水の「戦略的意思決定への影響力は、企業評価に影響を与えるレベルに達する可能性がある」という。
水不足がポートフォリオにどのような影響を与えるか、これまで以上に多くの投資家が注目せざるを得なくなっている。リポートは水不足を財務リスクとして認識する資産運用会社や年金基金が増加していることを指摘。世界銀行は水供給への圧力が続くと、世界の一部では国内総生産(GDP)が6%も減速する可能性があると見積もっている。
JPモルガンのバリアンカバル氏は「問題の規模が大きくなり、さまざまな状況下でそれぞれ適用可能な一連の解決策が利用できるようになったことに加え、この問題に対する社会的関心の高まりで、投資家を含むさまざまな利害関係者が水の分野に注目するようになった」と述べた。
JPモルガンとERMは、水は大きな投資機会だと指摘。分野として、年間910億ドル(約13兆9400億円)の公共支出が不足していると推計している。投資可能な分野としては、治水インフラや水処理施設、新技術などがある。しかし、今のところ、水への民間投資は「必要な額のほんのわずか」だという。
重要なハードルは適切な貨幣価値の設定だ。JPモルガンとERMは、多くの企業が二酸化炭素で試みているのと同じように、市場も水に価格をつける必要があると主張。現在の米国での価格決定は「水の真の価値を反映していない」と記述している。
原題:JPMorgan Says AI Power Demand Is Straining US Water Supplies(抜粋)
(リンクを付け、更新します)
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