欧州中央銀行(ECB)の当局者らはこれまで、ほぼ一丸となってユーロ圏経済を2%のインフレ目標に向かって導くこと取り組んできた。しかし、目標達成が近づくにつれ、ここから何をすべきかについての見解が分かれつつある。

当局者らが先週、世界経済の現状と今後発生する可能性のある課題について話し合うために集まったワシントンで、意見の相違はすでに明らかになっていた。

演説や会話の中で表明された意見は、今後の金利動向についてだけでなく、ECBの意図の伝え方、インフレ見通しへのリスク、量的引き締め(QT)についてもさまざまだった。

今から12月の政策委員会までの約7週間には、激しい議論が交わされる見込みだ。今後数日の間には、10月のインフレデータと、ドイツの景気後退を裏付ける可能性が高い7-9月(第3四半期)域内総生産(GDP)速報値が発表される。

 

これらのデータに対する反応からは、ユーロ圏経済の健全性について当局者らが現在どのように判断しているかをうかがうことができるが、11月5日の米大統領選挙という不安要素があるため、ECBの次回決定についての確実性は当分得られないだろう。

金融市場は12月に35ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)程度の緩和を織り込んでおり、通常の0.25ポイント利下げか、より積極的な0.5ポイント利下げかについてトレーダーの間でほぼ半々に見通しが割れていることを示唆している。

ラガルドECB総裁

ラガルド総裁は先週、国際通貨基金(IMF)年次総会に出席するためにワシントンを訪れたECB当局者の中で最初に発言した1人だった。

ラガルド氏はブルームバーグテレビジョンとのインタビューで、「今週いっぱいは、0.50ポイントにすべきだとか、0.25ポイントにすべきだとか言う人がいるだろう」とし、「方向性は明確だが、ペースは3つの基準に基づき過去と将来の要素を概観し判断を適用して決定する」と語った。

ほとんどの当局者は、インフレ見通し、基調的な物価上昇圧力の強さ、政策の波及状況という3つの基準が決定の基盤になると繰り返し述べているが、強い見解を示すメンバーもいる。

ドイツ連邦銀行のナーゲル総裁は、借り入れコストの引き下げを急ぎ過ぎることに対して警告を発した。オーストリア中銀のホルツマン総裁は、12月は0.25%利下げの可能性が高いと述べ、リトアニア中銀のシムカス総裁は、データを分析した結果、12月の「50ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)の利下げの根拠は見当たらない」と論じた。

ナーゲル独連銀総裁

対極に位置するポルトガル中銀のセンテノ総裁は、ECBの選択肢を0.25ポイント刻みの利下げに限定することに警告を発した。

インフレ率が目標の2%を大幅に下回ることはすでに現実的なリスクだと主張する声がある一方、ベルギー中銀のウンシュ総裁は、インフレ率が1.7%に低下したことを「過度に騒ぎ立てるつもりはない」と述べた。

28日にマドリードで発言したデギンドスECB副総裁は、インフレ退治は進展したものの勝利宣言は時期尚早だとの考えを示した。「入ってくる情報はディスインフレのプロセスが軌道に乗り進展していることを示している。しかし見通しを取り巻く大きなリスクがある」と語った。

地政学的な対立がエネルギーや貨物輸送コストを押し上げる恐れや、異常気象や粘着性の賃金上昇などがいずれも物価上昇圧力を長期間にわたって高止まりさせる可能性があると指摘した。同時に、経済は予想よりも弱く、リスクは高まり下方に傾いているとの認識を示し「信頼感の低下により、消費と投資が予想ほど早く回復しない可能性がある」とも述べた

このような意見の相違は、当局者の金利見通しだけでなく、その意図を説明する言葉にも影響を与えるだろう。

ECBは現在、景気抑制的な金融政策姿勢を必要な限り維持するとしている。このガイダンスを放棄すれば、市場はより急速な利下げのシグナルと受け止める可能性がある。

そのほか、「会合ごとの」アプローチという文言について、成長を抑制することも刺激することもない中立金利をどこに位置付けるかについて、利下げで金融緩和を実施しながら同時に量的引き締めを進めることになる状況について、議論の材料は数多い。

 

原題:Guindos Says ECB Sees ‘Substantial Risks’ to Inflation Outlook、ECB’s Holzmann Says Quarter-Point Rate Cut Probable in December(抜粋)

(第13、14段落にデギンドス副総裁のコメントを追加します)

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