(ブルームバーグ):東京地下鉄(メトロ)は23日、東京証券取引所プライム市場に上場した。個人投資家などからの関心は高く、首都圏に住む人々の生活の足にもなっている同社の上場は投資家のすそ野拡大に一役買うとの期待も上がる。
午前9時の取引から買い気配で始まった後、同10時すぎに公開価格1200円と比べて36%高となる1630円で初値を付けた。その後、同47%高の1768円まで上昇。終値は1739円。時価総額は1兆円の大台を超えた。売買代金は2940億円とトップだった。
初値が上振れたことについて、同日記者会見した東京メトロの山村明義社長は「多くの皆さまに評価いただいた結果だと思っており、改めて感謝申し上げる」と述べた。その上で「継続的な企業価値向上に取り組み、お客さまはじめ多くのステークホルダーの皆さまに信頼され、支持される企業グループを目指す」と語った。
株価見通し分かれる
いちよしアセットマネジメントの秋野充成社長は「初値を付けても上昇しており好発進だ。業績にも安心感があり、個人投資家には人気の銘柄」と指摘。世界の主要な株価指数に入る可能性もあるとして「海外投資家の注目も高まるのではないか」と述べ、今後2000円程度までの上昇を見込む。
一方、ニッセイアセットマネジメントの伊藤琢チーフ株式ファンドマネージャーは「公募価格は割安過ぎ。1600円程度を中心とするレンジがリーズナブルと見ていた」と説明。「大幅な利益成長は期待できないが、ディフェンシブ性もある。株価はここからそれほどの上昇は期待できないが、今の水準であれば利回り銘柄として長期保有はできるのではないか」と見ていた。

複数の主幹事証券会社への取材によれば、上場前に売り出し株数に対して国内外投資家から15倍強の需要があった。DZHフィナンシャルリサーチの田中一実IPOアナリストは初値を1500円前後と予想していた。いちよし証券によると、今年新規株式公開(IPO)した企業(22日時点)61社の平均初値騰落率は34%の上昇だった。
東京メトロ株は政府が53.4%、東京都が46.6%を保有しており、上場に合わせてそれぞれ半分の株式を売り出した。売り出し総額は3486億円、初値に基づく時価総額は9500億円と2018年に上場した携帯キャリアのソフトバンク以来の大型IPOとなった。
いちよし証・投資情報部の野原直子課長は「株主優待や配当利回りの良さから、資産株としての側面も強い」との見方を示していた。
市場関係者は収益の安定性も魅力に挙げる。路線が都市部に限られており、人口減少の影響を受けにくいとの見方だ。1日当たりの平均輸送人員数は、JR本州3社も含めた大手鉄道会社の中で2位に位置する。

一方、収益に占める鉄道事業への依存度が高く、不動産事業などの比率は低い。利益成長余地が他の私鉄と比べて劣るとの見方もある。新型コロナウイルスの影響で22年3月期まで2期連続で最終赤字となった。輸送人員数も新型コロナ前の19年3月期と比べると1割超落ち込んだ水準だ。
今期(25年3月期)の連結純利益は前期比13%増の523億円を計画。インバウンドなどの利用増加もあり、運輸業の営業利益は前期比18%増の753億円を見込む一方、不動産事業は前期比1.4%減の45億円にとどまる。
しんきんアセットマネジメント投信の藤原直樹シニアファンドマネジャーは、鉄道事業は公共的な側面もあることから、利益を追求して急激に運賃を引き上げることは難しいと指摘。不動産事業も成長余地は限られるため「堅実な決算にはなるが、右肩上がりというような印象はない」とし、投資家にとっては「株価が1200円を割れずに、安定推移して配当と株主優待を確実に得られれば良い」とみる。
公開価格の1200円では3.3%だった配当利回りは、この日の株価上昇によって2.3%に低下した。ニッセイ基礎研究所の井出真吾チーフ株式ストラテジストは「成長期待は強くなく、利回り銘柄であることから株価は少し高いようにも見える」と指摘。「今すぐに公開価格を下回ることはないだろうが、買い需要が一巡すると下がる可能性はある」との見方を示した。

東京メトロの1日当たりの輸送人員数は、単純比較で東京都民の約2人に1人が利用している計算となる。東西線や銀座線、丸ノ内線、南北線など9路線を運営し、総路線距離は195キロメートル。駅数は全路線で180を抱える。ニューヨーク市の地下鉄など海外の地下鉄との比較でも東京メトロの利用者の多さは目を引く。
6年ぶりの大型案件というだけでなく、日常生活に欠かせない身近な交通インフラという観点からも注目を集める。日本証券業協会の森田敏夫会長は16日の会見で「投資家のすそ野を広げるという意味でも非常に大きなメリットがあるのではないか」と言及。今回の東京メトロの上場を機に新たに株式投資を始めようとする個人投資家の増加に期待を示した。
(記者会見でのコメントを追加するなどして記事を更新します)
--取材協力:日向貴彦、佐野日出之、田村康剛.もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
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